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意外性に満ちた東急系企業

東急ハンズ売却の背景にある東急と東急不動産HDの親子会社のつばぜり合い(2/2ページ)

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いち早く損切りされた東急ハンズ

その東急不動産は13年にホールディングス化し、22年3月期には待望の売上高1兆円を突破する予想だ。その期末の3月に東急ハンズの株式を売却し、売却益は再生電力に振り向ける。このことは「異業種へのチャレンジの舞台は半世紀ぶりに変更される」と社内では見られている。

東急不動産HDの傘下にあった東急ハンズは1976年に創業。ライバルのロフトが旧セゾン系(西武の流通部門)から派生したのとは違い、東急百貨店とは関わりがない。

東京・都心を中心に約85店舗を展開し、商圏を広げてきた。しかし、ネット通販の逆風を受け、コロナ禍の外出自粛もあって業績が悪化し、21年3月期の業績は散々で、売上高は35%減の631億円、44億円の営業赤字に転落してしまった。

21年10月末に、主力店舗の1つだった池袋店を閉店。旗艦店の渋谷店以外の店舗は小型店も目立つ。強みのある専門的な売れ筋商品のロングテール戦略は、中小規模の店舗ではとりにくく、逆にネット通販の得意とするところである。このため東急ハンズの「豊富な品ぞろえ」の看板は揺らいだ。また、通販全盛時代の中、東急ハンズの強みであった店員の専門知識は「ネット検索に置き換えられた」ともいわれる。そこで自らもネット通販に力を入れ、巻き返しを試みたが難しかったようだ。


全盛期の賑わいは感じられない旗艦店の東急ハンズ渋谷

一方、東急不動産HDは、1年ほど前からハンズの売却を検討していた。大手証券会社を通じて数十社に東急ハンズの身売りについて話をしていた。最終的に郊外展開してきたホームセンター最大手のカインズがハンズの売却先に決定。その買収額は200億円超とされる。

電鉄事業のテコ入れか、再生エネルギー事業への注力か

東急不動産HDは、不動産以外のハンズなど事業の後退はすでに織り込んでおり、新規事業として再生可能エネルギー事業に力を入れる腹づもりだった。

西川弘典東急不動産HD社長は、22年1月4日の年頭所感で、ハンズ売却で得た資金は新たな経営ビジョンに沿って、「不動産業界トップクラスの実績とアドバンテージを活かしては再生可能エネルギー事業を中心に振り向ける」と話している。

再生エネルギー事業については、開発中を含めて70カ所、定格容量は1200メガワットを超え、すでに原発一基分を超える発電能力を確保中だという。ハンズ売却を発表した21年12月には、出資先の再生可能エネルギー事業領域の「リニューアブル・ジャパン」(十数%の株を保有し、第2位の大株主)の上場に伴い、その株式を追加取得した。再生エネルギー事業は今後の伸びに期待が持てる。とはいえ、ハンズのような安定性には疑問符がつき、先行きに不安要素がないわけではなく、西川社長の手腕が問われる。

東急と東急不動産HDの親子2社を比べると、鉄道事業と不動産事業の事業規模や収益が、前にいったように親子が逆転している。

22年3月期の業績予測では、東急不動産HDが増収増益で売上高が1兆円を突破(1兆100億円)、営業利益800億円。これに対して、東急は売上高が8684億円、営業利益は250億円にとどまる見込みだ。

親子とはいえ、業績と不動産事業ではすでに逆転されている東急と東急不動産HD。今やお互いが牽制し合う「ライバル」と見られている。一世を風靡したカンバン事業であっても、結果が出なければ売り飛ばされる――それが東急ハンズだったのかもしれない。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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