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「スルガ銀行不正融資」から見えてきた不動産投資で失敗する人、しない人(2/2ページ)

大谷 昭二大谷 昭二

2021/10/26

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高学歴・高収入ほどダマされやすい?

不正融資で問題になったスルガ銀行のケースでは、ご相談者の側にもいくつかの共通点がありました。

1つは、被害者の年代が30代から40代半ばの方々が多いということです。

2つ目は、一流企業などに勤めている方、医療関係の方が中心で、総じて年間所得は、同年代の平均所得よりかなり高く、高学歴の方だったということです。

私は「属性」という言葉に差別感を感じるので好きではないのですが、被害に遭った方は総じて業界で「属性のいい」と表現される方たちでした。営業トークで「あなたは属性がいいから」と、億円単位まで借り入れできる」といわれている人も多くいました。

小さな不動産投資から、大きな不動産投資に変わる転換点

今や誰しも将来や老後の年金について、漠然とした不安を持っています。そこで将来のため老後の生活費の確保のためという理由から、不動産投資に興味を持たれる方も多くなっています。

しかし、最初から一棟建ての物件を購入される方は少なく、最初はワンルームマンションや中古の区分マンションから始められます。このような区分マンションはリスクが小さい代わりに、収益も多くはありません。

ローンを使っていれば、毎月の家賃収入から返済や諸経費を引くと、せいぜい数万円ほどの利益というのが現実です。

そのため空室期間が長かったり、新築で投資物件を購入した場合は、売却価格が大幅にダウンするため、トータルでは赤字ということもあります。年収が高い方ですと、「今は収益がなくても、将来資産が残る」「多少の赤字は節税になる」と納得しようとします。

また、物件を複数持つことでリスクを分散できると考え、投資物件を増やす方もいます。しかしながら、収支が改善せず赤字が増えて不安を感じ、不動産投資セミナーなどの参加される方もいます。

そうしたセミナーでは役立つものあります。しかし、なかにはさらなる積極投資が必要と、一棟マンションを提案するものあります。

そこでは投資額が大きくなれば、うまくいった場合のリターンも多くなる。融資もこれまでの区分所有マンションの投資では、考えられない条件で借りられるなどを提案。こうしたことを鵜呑みにして、一棟建て物件に対する投資へと気持ちが傾くようです。

とはいえ、億単位の“借金”には不安がある――そんなときに

「自己資金ゼロだから、リスクはほとんどありません」

「家賃は保証。空室のリスクはありません」

「利息、管理費、税金を支払っても黒字です」

という3つの罠。そして、

「あなたは属性がいいから、〇億円まで借入できますよ」といわれ、これが決定打になって投資に踏み切ってしまった方もいました。

なぜ、営業トークの甘い言葉に引っ掛かってしまうのか?

高い教育を受け、一流企業に勤めている人がなぜ甘い罠にかかるのか、その理由は明確です。

心理学の「認知バイアス」という概念の一つに「確証バイアス」があります。

これは「自分にとって都合のよい情報ばかりを無意識に集めてしまう傾向」のことです。ローマ皇帝カエサルは「人間は、現実のすべてが見えるわけではない、見たいと欲する現実しか見ていない」(『ローマ人の物語』塩野七生著より)といっています。

そんな過去の偉人でなくても「恋は盲目」、あるいは「あばたもえくぼ」という言葉あるように、人はそのときの心理状態で、ものの見方に対する客観性がなくなってしまいます。

ほぼ全員が現地で物件調査をしていない

最後の共通点として致命的ともいえるのが、信じられないことにスルガ銀行の不正融資の被害者はほぼ全員が現地で、物件の調査をしていないということでした。

よく「物件は朝昼晩、見なさい」と言いますが、これは絶対のセオリーです。物件の状況を詳細に把握して、周辺の物件の管理会社に聞き込みを行うなど、自身で納得し購入するのが常識です。不動産を株式などのように「資産投資」として捉えるのではなく、不動産ビジネスという「事業」を行う経営者であるという自覚を持つことが必要です。

業者の甘言による罠にかかり、「私には億単位のマンションを購入できる」「マンションオーナーとして安心できる」と思ってしまうと、リスクが見えなくなってしまいます。

むしろ、「家賃保証はあるが、不動産業者が倒産する可能性」「建物に隠れた欠陥があるのではないか」など、検討しなければならないリスクは山ほどあります。実際、社会問題ともなった、かぼちゃの馬車をはじめとしたシェアハウス投資の運営会社は、問題発覚前後に次々と倒産しています。

購入前は良くても、購入してしばらくすると、さまざまなリスクが見えはじめます。そして、自分の人生をゼロにしかねない多額の借金があることに気が付く――そうなってからでは遅いのです。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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