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「スルガ銀行不正融資」から見えてきた不動産投資で失敗する人、しない人

大谷 昭二大谷 昭二

2021/10/26

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不正融資の被害ケースの共通点

2019年5月スルガ銀行調査報告書よると一棟建てアパート・マンション、区分マンションなど、シェアハウス以外の融資案件は3万6260件。そのうち6927件に不正が認められます。

「改ざん・偽造等の不正が認められた案件」を債権額ベースでみると、収益物件では4427億2700万円。また、「改ざん・偽造等の不正の疑いがある案件」の債権額は収益物件では781億1600万円になっています。

私たちは「スルガ銀行で融資を受けて収益不動産を購入したのだが、収支が悪くこのままでは破産しそうだ」と多くのご相談を受けてきました。そうした被害者の実態を詳細に見ていくと、被害者にはいくつかの共通点があることが浮かび上がります。

「自己資金ゼロだから」――自己資金のリスクはほとんどないという罠

「スルガ銀行なら、オーバーローンで全額が借りられます」

「自己資金はゼロなので、リスクはありませんよ」

というような言葉を聞くと、借入金にリスクはないと思ってしまうようです。

例えば、1億円を年利4.5%で30年間借り入れると、支払元利合計は1億8000万円を超えます。この大きな金額が、即ちリスクですが、「自己資金ゼロで、全額借りられる」といわれ、家賃収入があると思うと、このリスクをリスクとして捉えないようになってしまうのです。

「家賃は保証します」――空室のリスクはないという罠

賃貸経営で誰もが気にするのが「空室」に対するリスクです。

これがいわゆるサブリース契約です。サブリースで家賃を保証するというのは、それを超える利益が保証する側にあるということです。つまり、売買契約で大きな利益を得ているので、その一部を少し吐き出してでも、売買を成立させれば、その先に買った人には見えない莫大な利益を手にすることにほかなりません。

もちろん、すべてのサブリース契約を否定するものではありません。サブリースは正しく使えばいい仕組みですが、安易に契約すると落とし穴があります。

サブリース事業者は、契約期間中であっても、いつでも家賃の減額、あるいはサブリース契約の解除ができます。2020年にいわゆるサブリース新法が施行されましたが、実はこの2点は変わっていません。

その理由は「借地借家法」という法律により、借り主(サブリース事業者)の利益が、過保護なまでに守られているためです。

ある悪質業者の例では、実際の家賃収入は満室でも100万円しかないのに「サブリースで150万円で借り上げます」と契約。しかし、契約3カ月後に一方的に「サブリース契約解除する」という文書を通知して、その後連絡がとれなくなったものがありました。

結果、購入者は毎月の赤字分20万円、さらに管理費や租税などの諸経費もあり、大赤字となってしまいました。

「利息、管理費、税金を支払っても黒字です」――収益確保確実という罠

不正融資が問題になったスルガ銀行の担当者は、

(家賃収入-支払元利等)÷月

を主張し、確実に収益が出ることに営業トークにしていました。しかし、この数式には隠れた費用が計上されていません。それは空室リスクへの対応と建物の修繕費です。

大手の賃貸事業者の統計では築30年の賃貸住宅の空室率は平均15%になります。新築であれば満室にすることはそれほど難しくはありません。しかし、築古になってしまうと、どうしても家賃は下げざるを得なくなります。そのため資金計画を立てる際は、家賃引き下げを織り込む必要があります。

修繕費は、2つあり借り手の退去後の原状回復。さらに大規模修繕です。なかでも一棟建てのオーナーであれば、10~15年に1度は行わなければならない大規模修繕費用も全額自己負担のため、これらの費用もきちんと計算しなければ、トータルで黒字になるとは言い切れません。

スルガ銀行の審査部では、元利合計が満室想定家賃の70%を超え契約はしないとの規定がありました。しかし、一連の不正融資物件では、これが守られていなかったようです。

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高学歴・高収入ほどダマされやすい?

不正融資で問題になったスルガ銀行のケースでは、ご相談者の側にもいくつかの共通点がありました。

1つは、被害者の年代が30代から40代半ばの方々が多いということです。

2つ目は、一流企業などに勤めている方、医療関係の方が中心で、総じて年間所得は、同年代の平均所得よりかなり高く、高学歴の方だったということです。

私は「属性」という言葉に差別感を感じるので好きではないのですが、被害に遭った方は総じて業界で「属性のいい」と表現される方たちでした。営業トークで「あなたは属性がいいから」と、億円単位まで借り入れできる」といわれている人も多くいました。

小さな不動産投資から、大きな不動産投資に変わる転換点

今や誰しも将来や老後の年金について、漠然とした不安を持っています。そこで将来のため老後の生活費の確保のためという理由から、不動産投資に興味を持たれる方も多くなっています。

しかし、最初から一棟建ての物件を購入される方は少なく、最初はワンルームマンションや中古の区分マンションから始められます。このような区分マンションはリスクが小さい代わりに、収益も多くはありません。

ローンを使っていれば、毎月の家賃収入から返済や諸経費を引くと、せいぜい数万円ほどの利益というのが現実です。

そのため空室期間が長かったり、新築で投資物件を購入した場合は、売却価格が大幅にダウンするため、トータルでは赤字ということもあります。年収が高い方ですと、「今は収益がなくても、将来資産が残る」「多少の赤字は節税になる」と納得しようとします。

また、物件を複数持つことでリスクを分散できると考え、投資物件を増やす方もいます。しかしながら、収支が改善せず赤字が増えて不安を感じ、不動産投資セミナーなどの参加される方もいます。

そうしたセミナーでは役立つものあります。しかし、なかにはさらなる積極投資が必要と、一棟マンションを提案するものあります。

そこでは投資額が大きくなれば、うまくいった場合のリターンも多くなる。融資もこれまでの区分所有マンションの投資では、考えられない条件で借りられるなどを提案。こうしたことを鵜呑みにして、一棟建て物件に対する投資へと気持ちが傾くようです。

とはいえ、億単位の“借金”には不安がある――そんなときに

「自己資金ゼロだから、リスクはほとんどありません」

「家賃は保証。空室のリスクはありません」

「利息、管理費、税金を支払っても黒字です」

という3つの罠。そして、

「あなたは属性がいいから、〇億円まで借入できますよ」といわれ、これが決定打になって投資に踏み切ってしまった方もいました。

なぜ、営業トークの甘い言葉に引っ掛かってしまうのか?

高い教育を受け、一流企業に勤めている人がなぜ甘い罠にかかるのか、その理由は明確です。

心理学の「認知バイアス」という概念の一つに「確証バイアス」があります。

これは「自分にとって都合のよい情報ばかりを無意識に集めてしまう傾向」のことです。ローマ皇帝カエサルは「人間は、現実のすべてが見えるわけではない、見たいと欲する現実しか見ていない」(『ローマ人の物語』塩野七生著より)といっています。

そんな過去の偉人でなくても「恋は盲目」、あるいは「あばたもえくぼ」という言葉あるように、人はそのときの心理状態で、ものの見方に対する客観性がなくなってしまいます。

ほぼ全員が現地で物件調査をしていない

最後の共通点として致命的ともいえるのが、信じられないことにスルガ銀行の不正融資の被害者はほぼ全員が現地で、物件の調査をしていないということでした。

よく「物件は朝昼晩、見なさい」と言いますが、これは絶対のセオリーです。物件の状況を詳細に把握して、周辺の物件の管理会社に聞き込みを行うなど、自身で納得し購入するのが常識です。不動産を株式などのように「資産投資」として捉えるのではなく、不動産ビジネスという「事業」を行う経営者であるという自覚を持つことが必要です。

業者の甘言による罠にかかり、「私には億単位のマンションを購入できる」「マンションオーナーとして安心できる」と思ってしまうと、リスクが見えなくなってしまいます。

むしろ、「家賃保証はあるが、不動産業者が倒産する可能性」「建物に隠れた欠陥があるのではないか」など、検討しなければならないリスクは山ほどあります。実際、社会問題ともなった、かぼちゃの馬車をはじめとしたシェアハウス投資の運営会社は、問題発覚前後に次々と倒産しています。

購入前は良くても、購入してしばらくすると、さまざまなリスクが見えはじめます。そして、自分の人生をゼロにしかねない多額の借金があることに気が付く――そうなってからでは遅いのです。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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