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シェアハウスだけではない アパマン不正融資も――被害者が語るスルガ銀行不正行為の実態

大谷 昭二大谷 昭二

2021/08/27

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撮影/編集部

シェアハウス「かぼちゃの馬車」(運営会社:スマートデイズ)の破綻をきっかけに次々と明らかになったスルガ銀行の不正融資。

2020年3月、被害弁護団とスルガ銀行は、このシェハウスの土地と建物を物納することで融資を相殺、つまり、帳消しにするということで、一応の決着をみた。しかし、この問題が片付いて間もない5月、今度はスルガ銀行のアパート・マンションローンでも、シェアハウスと同様の不正融資があったとして被害者弁護団が結成された。アパマンローンは「1棟収益ローン」と呼ばれ、同社の全融資の半分近くになるという。そのためこの問題はシェアハウスの比ではないとも指摘される。同社のアパマンローンの被害者が語るその手口とはどういうものだったのか――。

トントン拍子で進む1棟マンションの購入

45歳のAさんは、区分所有マンションを2戸所有し、副収入が得られる不動産投資に積極的な人である。

「平成27年7月か8月ごろ、お世話になっている資産形成の会社の方から交流会の場で、ある不動産会社の代表を紹介されたことが始まりでした」とAさんは話す。

その後、新たな不動産投資に興味のあったAさんは、その不動産会社代表と連絡を取り、1週間ほどすると栃木県K市の物件を紹介された。このアパートは「自己資金は不要で、35年の家賃保証と修繕保証が付いているから安心だ」という物件だった。

さらに不動産会社代表から「金利は2年ごとに見直しされ下がる「属性がいいから間違いなくいい物件を買える」と言われたという。

もちろん、Aさんも最初のうちは不安もあったが、不動産会社代表から「私に任せてください、絶対大丈夫です」と再三言われ、さらには1棟アパートを購入して成功した人の話を聞かされるにつれて完全に信用してしまう。

次ページ ▶︎ | 物件価格は1億200万円 利回り8%の優良物件のはずが…

物件価格は1億200万円で、年間の家賃収入が850万円以上、利回りは約8%と高利回り。しかも、融資はスルガ銀行が全額受けてくれると説明された。そしてキャッシュフローシミュレーションにも、2年後にはスルガ銀行の金利が下がるか、あるいは他の銀行に借り換えができるため、いずれにしても金利が下がることが示されていたという。

「借入金利は4.5%で高いと思いましたが、空室保証や修繕保証が付いている。自己資金も必要なく、2年後には金利が下がったり、他の銀行に借り換えができるのなら、リスクは小さいと思い込んでしまいました」(Aさん)

築25年以上経過した物件ではあったが、「管理がしっかりされており、修繕費もあまりかからない。家賃収入もしっかりしている」と話す不動産会社代表の言葉をAさんは信じ、現地にも行かず購入を決心。

その意思を不動産会社代表に伝えると、後日、渋谷の喫茶店に呼び出され、融資の申込書に記入し、必要書類の源泉徴収票を渡した。さらに印鑑証明、預金のある三菱UFJ銀行、ゆうちょ銀行の通帳も必要ということで「不安がよぎった」とはいうものの、「そんなものなのか」と実印、通帳、印鑑証明を渡してしまう。

言うがままにさまざまな書類を書かされて

契約は平成27年9月3日にスルガ銀行の東京支店内で行われた。そこには不動産会社代表、スルガ銀行首都圏営業の職員2人と司法書士がいた。契約書や重要事項説明の説明は、不動産会社代表からなされたものの、宅地建物取引士証の提示はなかったという。

「司法書士から登記の説明などを受けた後、スルガ銀行の職員からの指示に従い、次々と出される書類に記入しました。その際、当時の私の年収は560万円程度だったのですが、年収欄には750万円くらいで記載するよう指示されました。うちの会社は残業代がきちんと付くので、休日手当なども加味すれば750万円ほどはもらえる状況ではあったのですが……」(Aさん)

次ページ ▶︎ | カードローン、積立保険、積立預金

さらにスルガ銀行・首都圏営業の職員は「カードローン(リザーブドプランPLUS・限度額200万円)」と「キャッシュカード(Visaデビット付キャッシュカード・限度額700万円)」の申し込みを促した。「スルガ銀行の職員から、融資をするにはこれも入らないとダメだという説明があったと思います」とAさんはそのときの状況を話す。

また、もう一人いたスルガ銀行の職員から、大手生命保険の積立保険(月額1万円)と15万円の定期積立預金、そして200万円の定期預金が、融資の条件と提示される。

「自分は預金していませんが、あとで通帳を見ると200万円が定期預金されていました。融資の中から200万円が預金されたのだと思います」(Aさん)

不動産会社代表に預けた実印と2つの銀行通帳はこのときに返却されている。


ある被害者の銀行通帳(Aさんの通帳ではありません)

この日は、重要事項説明書や売買契約書、融資の申込書や保険、カードローン、キャッシュカード、定期預金など、さまざまな書類に言われるがまま署名捺印したものの、それらの控えはその場で渡されることはなく、後日、郵送で送られてきた。

「売買契約書と重要事項説明書は原本ではなくコピーで、収入印紙も貼られていませんでした。手付金も100万円払ったとなっていますが、金銭は一切払っていません。また、売買代金の土地と建物の内訳や消費税額の記載もありませんでした」(Aさん)

融資の条件とされた生命保険への加入にあたり、健康診断が必要だと言われ診断を受けたAさんだったが、その後、不動産会社代表から「肝臓の数値が高いと指摘を受けましたが、なんとかします」と言われたという。

不正行為の実態 その中身とは

Aさんの例のように、スルガ銀行の融資では多くの不正行為が行われていた。それらの不正行為を整理すると次のようになる。

次ページ ▶︎ | 自己資金、収入、健康診断書…偽装のオンパレード

<債務関係書類の偽装>

通帳その他の自己資金確認資料の偽装

・スルガ銀行では、自己資金について原本確認が義務付けられているにもかかわらず、原本確認は全くされていない。

・収益不動産ローンにおいて、通常は10%の自己資金を投資家に要求するが、自己資金がないうえに「通帳その他の自己資金確認資料を改ざん」が日常的に行われていたようだ。しかも、本人の知らない現金を自己資金の見せ金としていたこともうかがえる。

収入の偽装

収益不動産ローンの融資基準は、借入申込人の年収の40%を返済限度額としていた。例えば、1億円の融資における返済金額が年/610万円とすると、年収1525万円でなければならないことになる。しかし、シェアハウスでの不正融資では「源泉徴収票や確定申告書の改ざん」が行われており、アパマンローンでも同様のことが行われていたようだ。

健康診断書の偽装

Aさんの場合、肝臓の数値が高いと指摘を受けていながら「なんとかします」と言われていたことから推察すると、団体信用生命保険などの加入申込における診断書などの偽装も疑われる。

<物件関係書類の偽装>

レントロール(部屋ごとの家賃や契約期間などが記載されたもの)の偽装

収益不動産ローンの融資基準では、満室想定賃貸収入の70%を返済原資とみて融資限度額を算出することとされているが、満室想定賃貸収入を大きく見せようと「同一物件で複数のレントロールを作成」「銀行用の募集家賃と実際の保証家賃の相違」「近隣価格と大幅に乖離した売買金額および担保評価」「賃貸借契約書の偽装」がなされていた。

物件概要書の偽装

物件購入後の事業計画(稼働率、運営委託費、修繕費、保険料など)を予測して投資家のキャッシュフローが融資の返済を上回るか否かの検証が必要だが、銀行用と投資家用の複数の物件概要書を作成していた。

違法建築の黙認

・違法建築では、売却が困難になることが多いが、これを黙認して融資を実行

・再建築不可物件や既存不適格物件の黙認

・確認済証の偽装

次ページ ▶︎ | まだある偽装…問題解決の落としどころは? 

<売買関係書類の偽装>

不自然な融資申込日、価格の違う売買契約書

自己資金10%ルールを潜脱するため、売買契約書に虚偽の価格を記載、偽造し、実質的に自己資金なしで不動産購入を可能とさせた。具体的には、価格の違う売買契約書の作成、契約締結日、融資申込日の改ざん、整合性のない契約書、売買代金の変更契約書などである、

自己資金の偽装

自己資金がないにもかかわらず、通帳の代わりに手付金の領収書を偽造し、手付金・中間金領収書の偽装、金額未記載の領収書の署名捺印など自己資金があるように見せかけた。

<その他の不正行為>

クーリングオフ告知義務違反

・スルガ銀行店舗以外での売買契約は、クーリングオフの適用を受ける。しかし、スルガ銀行の売買契約はクーリングオフの説明が一切されていない

・売買契約書、重要事項説明書にも一切記載がない

三為契約

売主が売主たる根拠を示すには「登記簿上所有者と売主の売買契約書」を買主と共に確認、もしくは買主から資料を取得しなければならない。しかし、スルガ銀行は何も確認もせず、買主は売主から何も提示されていない。第三者のための売買契約であれば、登記簿上の所有者とのつながり(売買の関係性)を証明するため、「登記簿上所有者と売主の売買契約書」の複写などが必要だ。当然、売買代金などは伏せてある内容になるが、一切提示されていない。この状況では完全な他人物売買になる。

買主不在の代金決済

・売買契約の約定が履行され残代金を支払う状態の可否の確認がなく、勝手に買主の預金口座から引き出しと送金を行っていたことがうかがわれる

・残代金支払い後も買主への連絡は行われない。送金が済まないと所有権移転登記はできないので、買主に連絡を入れていないことは著しく不誠実な行為になる

・スルガ銀行担当者は金銭消費貸借契約時に、金額未記載の引き出し伝票や振込依頼書などに署名捺印させただけで、買主本人からの預金引き出しに関する委任状や同意書もないまま預金の移動を行っていた

抱き合わせ販売、ほか

・融資条件としての定期預金契約、定期積金契約を半ば強制的に行っていた

・銀行代理業の許可を持たないチャネルに顧客への説明を委ねていた

問題解決の落としどころは?

Aさんのケースでは、当該物件の実勢価格が6000万円前後だったものが1億200万円で取引された。そこで民事調停では、実勢価格との差額を損害賠償請求の対象としてスルガ銀行側に認めさせ、その部分に関して借入金の一部と相殺するという主張を行った。これによりオーナーらには本来の不動産価値に見合った債務だけが残り、物件の売却による一括返済、あるいは賃料収入からの返済を目指すことになる。

一向に終わりを見せる気配のないスルガ銀行の不正融資問題。沈静化するどころかさらなる拡大が懸念される。“地銀の優等生”といわれたスルガ銀行の闇、今なお先は見えてこない。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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