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マンション外壁タイル剥離が続発!――その原因とどこまで施工会社に責任を求められるか

大谷 昭二大谷 昭二

2021/09/08

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写真はイメージ 本文とは関係ありません/©︎andsst・123RF

2005年竣工の物件に増え始めたタイル剥離

昨今、特にマンション外壁のトラブルが続発し、裁判となるケースも少なくありません。大阪地裁には建築関連の訴訟を専門に扱う「建築部」があり、そこではこうしたトラブルが常時10数件係争中です。

例えば、大阪府豊中市の9階建てマンションでも、2014年に築12年になる外壁の4割でタイルが浮くなどし、管理組合はタイル(縦5センチ、横10センチ)15万枚を交換し、施工会社に約5900万円の支払いを求めて提訴。一方、施行会社側は「施工は適正」と反論し争っています。

建物外壁タイル剥落・剥離問題が社会問題として顕在化している背景には、1970(昭和45)年にコンクリート型枠用合板がJASにより公布されたことにより、型枠材料としてコンクリートベニヤパネル(通称=コンパネ)が広く普及してきたことがあります。

その後、転用率等のコストパフォーマンスも考慮して躯体コンクリートの型枠にコンクリートベニヤパネルの表面に樹脂塗装を施した型枠材を使用することが主流となってきました。

このことによって、コンクリート表面の施工精度が上がってくると共に、コンクリート表面が鏡面状に仕上がってくる利点もありましたが、躯体コンクリート表面に直接仕上げ材を張ったり塗ったりする場合には、表面処理等を考慮しなければ剥がれてしまうという欠点も出てきました。

樹脂塗装を施した型枠材を使用するようになって以後、外壁タイル剥落・剥離事案が急速に増加しはじめて、05年~06年頃からの竣工物件にタイル剥離が多くなり、社会問題化されるようになってきたわけです。

そこで、国土交通省では建築基準法第12条の規定を改定して、これらの問題に対してきちんと対処するようになりました。

08年に改定された特殊建築物等定期調査業務基準により、改定前は、手の届く範囲を打診調査して、その他を目視調査とする(異常があれば精密調査を喚起する)となっていましたが、建物が竣工等から10年経過した場合は、全面打診調査を実施するようになりました。

上述したように、樹脂塗装を施した型枠材を使用するようになってから外壁タイル剥落・剥離事案が急速に増加した一因として考えられるのは、躯体コンクリート表面の鏡面状態があげられます。

このことを念頭に、12年には建築工事標準仕様書で外壁タイル張りのコンクリート下地処理について詳細な施工方法が記述されました。

こうしたことが、外壁タイル剥落・剥離問題のような背景の一因としてあるのです。

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下地素材と外部環境も原因に

外壁タイルの剥落・剥離問題にはいくつもの要因があると思いますが、基本的には、外壁タイル材料が躯体コンクリート・モルタル塗り・サイディング等を含めたタイルを貼る下地そのものとの間に接着不良(界面破壊)が生じて起因することが一番大きな要因ではないかと思われます。

そもそもタイルとタイルを貼る下地素材とは太陽熱等により受熱した場合、または降雪等により冷却された場合には、各々の膨張伸縮度合いが違ってきます。さらに地震等のような外力が加わった場合にも各々が動きます。(接着剤と非接着材料の接合界面での破壊を界面破壊と呼びます)

そこでそれぞれの素材に種々の力が働いた場合でも、お互いがきちんと接着されているような施工がなされていなければなりません

つまり、タイルの剥離要因にはタイルとタイルを貼る下地素材との接着面での接着強度が重要になってきます。界面破壊を起こさないためは、タイル張り下地面の清掃や下地処理が非常に重要となってきます。

これだけあるタイル剥離の原因

タイル剥離の主な要因は次のようになります。

・下地処理未実施・下地処理不足・コンクリート躯体表面目荒し処理不足
・下地調整モルタルの硬化不良
・下地調整モルタル・タイル貼り付けモルタルの塗厚不足
・伸縮調整用タイル目地の未設置・不適切箇所への設置

コンクリート躯体表面の目荒しも見落とせません。

樹脂塗装を施した型枠材を使用するようになってからタイル剥離事故が増加してきた原因は、コンクリート躯体表面の目荒し処理がなされていないか、躯体コンクリート表面(タイル貼付け面)の鏡面状態が解消されないことによるタイル貼り付けモルタルの接着不足が起因していると思われます。

そこでコンクリート躯体に直接モルタル塗りを施工する場合・タイルを張る場合は、12年に建築工事標準仕様書で決められた仕様である超高圧水洗法等の目荒し処理が必須となってきます。

注意しておきたいのは、通常の清掃レベルのワイヤーブラシ掛け等は下地処理とはみなされません。

マンションやビル等の建物の外壁に陶磁器タイル等を貼った場合、そのタイル等が剥がれてしまうことがあります。施工を入念に行っても剥離がゼロということはありません。

建物の劣化は、建物のある地域・周辺立地・形状・気候・経過年数・建物配置等々によって劣化の状況が変わってきます。また、外壁タイルの剥離については、これらの条件のほかにも施工監理者の技量及びその建物を建てた建設会社の施工管理技術・タイル工事施工会社の技術力・タイル下地の施工精度等によっても大きく変化してきます。

次ページ ▶︎ | 施工不良によるタイル剥離の見分け方

施工不良によるタイル剥離の見分け方

外壁タイル剥離に至らないための留意事項は次のようになります。

・使用するタイル材料は、所定のものであること(形状・色・割れ等)
・伸縮目地、ひび割れ誘発目地を仕様書で定められた位置に設置すること
・下地モルタルの硬化不良・剥離・ひび割れ・浮き等がないこと
・汚れやレイタンス等の有害な付着物が無いこと
・所要の下地の精度が確保されていること
・目地幅の不揃い、目地幅の不均一の確認
・タイル施工完了後の全数打診検査を実施
・タイル接着力試験の実施(100㎡毎に1カ所以上)
・モルタル塗りタイル下地のモルタル調合は、標準仕様書によること

これらの事項に留意することで、タイル剥離は減ってくると思われます。

施工不良かどうかを見分ける手だての1つに「剥離率」というものがあります。

マンション等の外壁タイルの剥離率は、一般的に5年で3%以下、10年で5%以下であれば経年劣化の範囲内といわれております。しかし、この数値は施工不良のサンプルも含まれているのでそれらを除外しています。

施工不良がない場合のタイル剥離率は、1年で0.19%(10年で1.9%)程度が妥当ではないかと推察されます。

ちなみに大阪地裁の研究グループでは、5年以内0%以上、5年超10年以内の3%以上、10年超15年以内5%以上、15年超20年以内10%超の外壁タイル剥離率は、施工不良が推認できると判断基準を提言しています。

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最高裁判例から見る施工業者の責任

■別府マンション事件[最高裁 2011(平成23)年7月21日判決]
最高裁判決/設計事務所・施工業者にとって厳しい警鐘

判旨:タイルの浮き等「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があれば、損害賠償の責任を負うべきである。

つまり、建物はそこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等さまざまな者によって利用されるとともに、当該建物の周辺にはほかの建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等の生命、身体または財産を危機にさらすことがないような安全性を備えていなければなりません。

建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築に当り、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務を負い、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に、建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体または財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負います。

この判例によれば、外壁の剥落が生じると、設計・監理者と施工者には損害賠償責任がありますが、それだけではなく、剥落する恐れのある部分を放置した場合もその補修費を損害賠償する責任があということです。

もし、剥落が生じると、設計・監理者と施工者は、その補修費、落下物による人身事故の場合の怪我の治療費、慰謝料、あるいは物損事故の場合の弁済費用など、一切の費用を損害賠償する責任が求められます。

また、外壁に「浮き」があれば、剥落防止の措置としての補修費を損害賠償しなければなりません。

一方、建物の所有者は、損害賠償請求にあたって、設計・監理者と施工者に過失などの不法行為があったことを立証する必要がないと解されます。当該判例は、どんな理由があろうとも、外壁の剥落は社会的に許容されないと判断しました。

品確法の瑕疵担保責任は、主要構造部と雨水が浸入する部分について、新築住宅購入者に対してのみ10年間保証されているが、不法行為責任の時効は20年、瑕疵を知ってから3年であり、しかも、契約者だけでなく、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等建物利用者に訴訟をする資格を認める画期的な判決でした。

構造耐力上主要部分でないバルコニーの手すりの瑕疵であっても、これによって生命や身体を危険にさらすものであれば、不法行為が成立するとの最高裁の判決を高く評価するものです。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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