管理会社が管理を拒絶 分譲マンションで起きている「破綻」とその理由
朝倉 継道
2021/10/21
イメージ/©︎paylessimages・123RF
管理はもうお請けできません
近ごろ不動産界隈で話題になっていることのひとつに、分譲マンションでの「管理拒否」の事例がある。
拒否するのは住人ではない。管理会社だ。具体的には、管理会社がマンションの管理組合に対し、「契約は今回まで。次回はお請けできません」と、管理委託契約の更新を拒絶する。これには思わずビックリ仰天の管理組合も少なくない。
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なぜなら、「マンション管理会社が、いつまでも抱えていたい“お財布”であるはずのわれわれを自ら手放すなんて」と旧来どおりのベクトルのまま思ってしまうからだが、現実はそうでもない。彼らがビジネスを成立させられない客のもとから立ち去る話というのは、2~3年くらい前から、業界内ではちょくちょく耳に入っていることだ。
なぜこういうことが起きているのか、理由を挙げていこう。
1.人手不足
まずは、近年の人手不足だ。マンション管理業界もその渦中にあるひとつといっていい。加えて、同業界では2013年の改正高年齢者雇用安定法の施行によって、管理人や清掃スタッフなど、現場の中核を担ってきた定年退職世代の採用が難しくなっている。これらの人材が企業に留まることで、求人マーケットに吐き出されてこないのだ。管理物件をたとえ増やしたとしても、人を充てられず対応できない状況が広がっている。
2.人件費の上昇
上記、人手不足や、近年上昇が続いてきた最低賃金によって、マンション管理会社の多くは年々人材コストを膨らませている。にもかかわらず、管理組合側から委託業務費を値切られたり、修繕を他に発注されたりが続くのではたまらない。コストに見合う収益をもたらしてくれる客=マンションのみを選別していく流れになるのは、自然のことといえるだろう。
3.マンションの老い・お金の面
コストに見合う収益を求める管理会社に対し、逆に、マンション側ではこれに応えにくくなっている現実が指摘されている。
すなわち、古いマンションほど住人に高齢者が増え、年金暮らしの人も多くなり、各個人の収入面が厳しい。そのため管理費が上げづらく、管理会社側の委託業務費値上げの要望に沿うことが出来ない。なおかつ、修繕積立金の不足が生じていても、改善がはかりにくい。
そこで、管理会社側としては、日常の管理業務からは水揚げしにくい利益を大規模修繕等の受注でカバーしたいところ、そちらの見通しも立たないとなれば、当然厳しい判断に迫られる。長年のお客様を切り捨てざるをえないことにもなるわけだ。
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4.マンションの老い・人の面
マンション住人の高齢化は、そのまま管理組合の機能不全につながることが少なくない。理事会の人材不足や組合運営能力の低下、出席者が集まらず総会でもまともな合意が得られないなどの状況により、マンションを取り巻く種々の課題に対する判断が難しくなるようだと、管理会社もこれをサポートしきれない。
加えて、“モンスター”住人の出現もよく聞かれる話だ。過剰な要求や理不尽なクレームを突き付け、管理会社のスタッフ等を責め立てる。高齢化ばかりが原因とはいえないものの、いわゆるキレる老人とも共通して、定年後の男性にその予備軍が多いとの指摘もたしかに多い。管理会社は、従業員の保護や業務効率の面からも、そういった現場からはますます手を引かざるをえなくなる。
なお、よく紹介される数字だが、近年の国の調べでは、マンション世帯主の年齢は70代以上が22.2%と、1/5以上を占めている。60代以上では49.2%と、ほぼ半数にのぼっている(国土交通省 平成30年度マンション総合調査)。
小規模で古いマンションが危ない?
ざっと以上4つを並べたが、こうした理由が通常は複数重なることによって、マンション管理会社による管理委託契約の更新辞退、すなわち管理の拒否が起きやすくなる。
また、同じ背景から、「管理委託業務費値上げの要望を管理会社から受けた管理組合が、これを不満とし、他の管理会社に交代を打診したが、応じる会社が無い」、さらには、「見積りが高いのを嫌い、契約中の管理会社へは修繕工事を発注して来なかった管理組合が、それが裏目に出るかたちで契約更新を拒否された」といった事例も、最近はよく聞かれるところとなっている。なお、こうした状況に陥りやすいマンションの特徴として、「築古」と「小規模」は、多くが挙げるところだ。このうち築古については、当然ながら、建物とともに住人も高齢化していることが多い。
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一方「小規模」の方は、修繕資金におけるスケールメリットの問題を要は指している。
すなわち、戸数の大きな物件に比べ、各戸ごとの負担額は同じであっても、修繕積立金等が総額としては早期に大きく積み上がりにくい宿命を小規模物件は背負っている。
これがマイナス要素となることで、管理会社の管理拒絶対象に小規模なマンションはあてはまりやすくなるといわれている。
「築年が古い50戸程度以下のマンションは、管理会社にとって望ましい商売の相手にならない。両者の関係存続は危うい」
などと、近ごろ囁かれることの多い理由が、以上といったところだ。
小規模マンションだから危機を回避できる?
そうしたわけで、管理会社に管理を拒否されたうえで、あとを引き継ぐ会社が現れない場合、そのマンションは、最終的には住人による自主管理を選択せざるをえなくなる。
もちろん、自主管理といっても、全部でなく一部に留めることができたり、専門家にアドバイザーになってもらったりと、かたちはさまざまだが、いずれにしても行く手は厳しいものになりがちだ。しかしながら、ここで小規模なマンションの場合、逆にメリットを発揮しやすくなることも事実だ。なぜなら、規模が小さいだけに、素人でもある程度管理しやすい建物であることが多いためだ。
加えて、住人の数が少ないことで、意思決定がスムースに運ぶ可能性も高い。
そこで、こうしたメリットを上手に生かすことができれば、訪れた危機をよいきっかけに、良質なコミュニティを育てていける環境が、小規模なマンションでは見出しやすいともいえるだろう。
分譲マンションにおける自主管理に関しては、資産価値の面でマイナスとの見方や、金銭着服の温床となる可能性への指摘もある。だが、現実として管理会社に突然見放されてしまうようなことがマンションに起これば、そうした不安もとりあえず措かざるをえない。住人はみんなで前に進むしかない。
分譲マンションを買って住むということは、クルーズ船の客になるということではない。責任あるクルーの一員になるということなのだ。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。