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小説に学ぶ相続争い『女系家族』③――分割しにくい不動産を含めた「共同相続財産」の遺し方(3/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/09/18

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「信託」で役割と共有持ち分を明確にする

そこで、嘉蔵さんは共同相続財産をどうすればよかったのか、考えていきたいと思います。

嘉蔵さんには、やはり遺言信託という形をおすすめします。

遺言状には、たとえば次のような信託を遺します。

「共同相続財産の名義を藤代とし、藤代、千寿、雛子の共有持ち分とする。管理は第三者に委託し、管理にかかる費用、税金などの経費を差し引き、利益が生じた場合には3人で平等に分割すること」

つまり、藤代さんを受託者、千寿さんと雛子さんを委託者、そして、藤代さん、千寿さん、雛子さんの3人を受益者とするのです。

※受託者=委託者から、財産を管理したり、その契約内容を執行したりすることを託された人
※委託者=財産を託す人
※受益者=財産を受け取るなどの利益を受ける人

表向きは藤代さん単独の名義になるため、藤代さんの名前で管理も処分もできるということにはなります。しかし、利益が出たら3等分しなければならないということなので、実質的には藤代さんと千寿さん、雛子さんの共有財産となります。

処分するにあたっては、所有権は藤代さん単独なので、共有者全員の同意は必要なく、売却は可能です。仮に単独名義の藤代さんが勝手に売却したとしても、売却したお金は3人均等に分配することになるので、藤代さんが独り占めにすることはできません。

ちなみに、私が藤代さんを財産の名義人、受託者としたのは、総領娘として一応、顔を立てておいたほうがいいのではないかと考えたからです。

また、藤代さんが管理するといっても、実際には山を管理する山守に委託することになるため、藤代さんの負担が重くなるというわけではないように思います。すぐに処分せず共有財産として保有しておくだけなら、こうした信託契約によって当面はもめごとを避けるという方法もあります。

こうした娘3人の信託契約は、嘉蔵さんの生前に行うこともできます。

生前に信託契約する場合は、委託者・受益者を嘉蔵さん、受託者を藤代さんにします。嘉三さんが亡くなったら、「利益は3人で分配しなさい」という内容にするのです。

嘉蔵さんにはこのような信託を使って、分割しにくい財産についても、ある程度の道筋を残しておけばよかったのではないかと私は思います。そうすれば、3人娘の仲違いを少しでも回避できたように思うのです。

【連載】
「犬神家の一族」の相続相談
小説に学ぶ相続争い『女系家族』①――相続争いがはじまる根本的な原因はどこにあるのか
小説に学ぶ相続争い『女系家族』②――財産を次の代に引き継ぐ、相続を考えるタイミング

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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