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全力都市 福岡! その成長の理由を探る(1/4ページ)

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2016年、福岡市がついに神戸市を超える

福岡市の勢いが止まらない。分水嶺となったのは2016年2月、この時点で福岡市の人口は153万8681人となり、長らく後塵を拝していた神戸市の人口153万7272人を初めて上回った。そして20年3月1日時点の人口は159万6617人となり、着実に増加し続けている。そして政令指定都市としての人口規模は順に横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市の次の5番手となり、力強い存在感を示しているのだ。もちろん人口増加だけが都市の力をあらわすバロメーターではないが、重要な指標であることには間違いない。人が多く集まればこそ、そこに衣食住が生まれ商いも盛んになる。それでは一体、なぜ福岡市は成長を続けることができるのか? そのマスタープランを紐解く。

地方創生と国家戦略特別区域法

14年9月、第2次安倍改造内閣発足に伴い高らかに発表された「地方創生」、別名ローカル・アベノミクス。それは急激な人口減少と東京への一極集中を回避するために安倍内閣が打ち出した施策で、その内容には東京から地方への転出や、地方の若年層の雇用を拡大するなど様々なものが含まれている。この地方創生に関する予算は15年度で1兆7178億円、16年度で1兆8148億円、17年度で1兆9691億円、18年度で1兆9228億円、19年度で2兆7344億円、20年度で1兆5089億円(20年度以外は補正予算を含む)となっている。

地方創生の概要には総合戦略を踏まえた個別施策の基本目標として、①稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする、②地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる、を掲げている。

この地方創生と密接に絡み合っているのが国家戦略特別区域法、通称国家戦略特区だ。国家戦略特区はいわゆる岩盤規制を打ち砕き、特定区域の経済・国際競争力の向上を図るというもので、その指定区域は東京圏・関西圏・新潟市など10区域となっている。そしてこのなかには福岡市・北九州市も含まれている。ちなみに、記憶に新しい「加計学園問題」で話題になった今治市も特区に含まれているが、本稿のテーマからそれてしまうのでここでは触れないことにする。

 

グローバル創業・雇用創出特区福岡市

福岡市は、15年5月1日に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」として指定される。高島宗一郎福岡市長は、福岡市が提供するグローバル創業・雇用創出特区のパンフレットの中でこう記す。

「『創業』は、経済の新たな活力を生み出す原動力です。創業が盛んになることで、多くの雇用が生まれ、就職の機会が増えるとともに、新しい商品やサービスにより、生活の質の向上が期待できます。また、既存企業にとっては、自らの第二創業はもちろんのこと、新たな商品やサービスを活用したビジネス・モデルの構築や、創業企業との提携による新たな取引先の開拓、海外市場へのビジネス展開といった効果が期待できます。さらに、地元経済がこのような形で活性化することにより、市民一人ひとりが暮らしの豊かさを実感できるようになると考えています。これまでにない新しい価値や製品、サービスを創り、グローバルなマーケットにチャレンジしていく・・・そんな夢を実現できるスタートアップの拠点となり、日本経済をけん引していくことが、特区として選ばれた福岡市が果たすべき大きな役割だと考えています。『グローバル創業・雇用創出特区』 福岡市で一緒にスタートアップにチャレンジしましょう!」

この高島市長のメッセージの文脈からも福岡市の未来へのキーワードは特区の名の通り、国際化と創業などによる雇用創出であるということが再確認できる。

ところで、この高島市長、経歴が実にユニークだ。10年に36歳という若さで福岡市長選挙に出馬し当選、14年と18年ではいずれも史上最多得票で再選し、現在3期目となる高島市長の前職は、九州朝日放送のアナウンサーだった。そんな高島市長の人となりを知るのに、こんなエピソードがある。

自著『福岡市を経営する』 (ダイヤモンド社 刊)によると、幼少の頃からプロレス好きであった高島氏は、いつしかプロレスの実況アナウンサーをしたいと願うようになる。しかし新日本プロレスを中継する番組「ワールドプロレスリング」の実況はテレビ朝日のアナウンサーがするため、そもそも高島氏が所属する九州朝日放送の仕事ではない。

とある日、博多で新日本プロレスの興行が開催、「ワールドプロレスリング」の中継が入る。そしてその実況をしていたのは、局は違うが同期のアナウンサーだった。これを見て高島氏はなんとかチャンスをモノにしたいと思い、翌日からいつ実況の仕事が来てもいいように準備を開始したという。

一般的に考えれば、いくら系列の局とはいえ、テレビ朝日から別会社である九州朝日放送の高島氏に実況を依頼することはないといっていい。経験値の高い自前のアナウンサーで実況すればいいし、中継制作費を抑えることもできるからだ。

それでも高島氏はあきらめない。スポーツ新聞をスクラップして知識を深め、専門チャンネルで音を消して実況の練習を繰り返す。そして休日には自費でテレビ朝日の中継の手伝いに行ったという。しかも実況用のノートやスクラップを鞄に入れて。実況を依頼されることはないと理解しつつも、日々の鍛錬を決して怠ることはなかった。

しかしその日は突然訪れる。1998年10月24日福岡国際センターでの出来事だ。当日、中継に入る予定だったアナウンサーが、他の実況スケジュールの都合で来ることができなくなったのだ。そこで番組プロデユーサーから声がかかり、晴れて実況をすることになったという。それがきっかけで高島氏はボランティアながらもプロレスの実況を続け、やがてはテレビ朝日から九州朝日放送に正式に発注され、“仕事”としてプロレスの実況をすることになったのである。

「アナウンサーから市長へ」というのは、一見華やかなサクセスストーリーに映るが上辺だけを見るとその本質を見誤ってしまう。高島市長は、このようにどこまでも泥臭い、努力の人なのである。

ちなみに、このエピソードが記されている著書『福岡市を経営する』が、めっぽう面白い。ほかにも市長選に出馬するまでの流れや、福岡市と同規模のエストニアにシンパシーを感じ、その成長戦略を参考にしていること、全方位から批判されても決断することこそがリーダーの務めであることなど、全編を通して高島市長の仕事論・人生論が詰め込まれている。市政に興味がない人でも心躍る内容となっているので、ぜひ一読してほしい。


現職市長による初の著書『福岡市を経営する』ダイヤモンド社刊 

さて、グローバル創業・雇用創出特区の話に戻る。福岡市が特区として取り組んでいることとはなんだろうか。大きな取り組みとしては次のようになる。

■福岡市をスタートアップ(創業)の拠点にする
■スタートアップビザで外国人の挑戦を支援
■スタートアップ法人減税で成長を支援
■「天神明治通り地区」「旧大名小学校跡地」「WF(ウォーターフロント)地区」における航空法の高さ制限を緩和、・高度医療提供のための病床整備

経済効果8500億円「天神ビッグバン」

これらの施策を含むものの中で特にインパクトの強いのが、ハード面での「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」「ウォーターネクストフロント」の大規模再開発・整備だ。

まずは天神ビッグバンについて。この再開発が完了した際の経済波及効果は年間8500億円と予測されるビッグプロジェクトだ。さらにこの施策により雇用者数を2024年までに2.4倍(+5万7200人)としている。

そもそも天神ビッグバンは、国家戦略特区による航空法の高さ制限の特例承認を受け、福岡市独自の施策としてビルの容積率緩和などを行い、民間投資を呼び込みながら天神エリアのビルや商業施設を建て替えるというものだ。具体的には10年間で30棟のビルの建て替えを促し、延床面積約1.7倍(44万4000㎡→75万7000㎡)、建設投資効果は2900億円と福岡市は試算している。

実際の建築確認申請数は、天神ビッグバン開始後の15年2月から19年8月までに41棟あり、すでに建て替えが完了したものは28棟となっていることからもプロジェクト自体は順調に推移しているのが分かる。

興味深いのが、このプロジェクトの持続的な賑わいを創出するために、「We Love天神協議会」と福岡市が連携し、官民連携で“オール天神”の推進体制を立ち上げたことだ。通常、ハコモノや大規模プロジェクトは「投資を呼び込んだら終了」「予算を確保したら終了」のようなものが多いが、推進する期間もこのように官民連携でプロジェクト自体を盛り上げるというのは好感がもてる。その取り組みとしては、渡辺通り東西における賑わいイベントの連携強化、キッチンカーなどによる日常的な賑わい・利便機能の充実、天神ビッグバンによる街の将来像やテナント移転先紹介などの情報発信、としている。

天神ビッッグバンにはもう1つ面白い試みがある。それは天神ビッグバンボーナス、略して「天神BBB」だ。なんだかプロレス団体みたいな名称だが、その内容は魅力あるデザイン性に優れたビルに、インセンティブを福岡市が付与するというものだ。制度の概要は、24年12月31日までに竣工予定の魅力あるデザイン性に優れたビルには、容積率緩和制度の拡大、認定ビルへのテナント優先紹介、天神ビッグバン専用融資商品、行政による認定ビルのPRといった「ボーナス」がある。


 開発が進む天神エリア/PHOTO 吉田達史

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この記事を書いた人

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