ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

GoToトラベル 外国人観光客がいない今だからこそ、仏を感じられる京都の寺院(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2020/10/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

本来あるべき「仏菩薩」を感じられる場所


京都 蓮華王院 三十三間堂/©︎Lucca・photolibrary

さて、こうしたことを考慮したうえで、現時点で、ほの暗い空間に現れるおぼろげな「光の塊」を、それも膨大な数のおぼろげな「光の塊」を実感させてくれる仏像、正確には仏像群を視覚的、感覚的体験させてもらえる筆頭は、京都の「三十三間堂(蓮華王院本堂)」である。

創建者が後白河法皇というのも、話の符節が合う。おまけに、いつもは観光客で混み合っていて、落ち着かないが、このところ幸か不幸か、コロナウイルスのせいで、訪れる人々の数が減っていて、ゆったりと拝せる。

ここには像高が166cm前後の等身大で、40本の腕をもつ千手観音立像が千一体も、まさに林立している。

三十三間堂という通称は、本堂の内陣の柱間、つまり柱と柱の間が33あることに由来し、建物の長さが三十三間(けん)という意味ではない。規模は118.2m×16.4mあり、木造建築としては、世界で最も長大らしい。なぜ、「33」という数字にこだわったのかというと、法華経などに、観音菩薩が「33」の姿に変身して、人々を救うと説かれているからだ。

ご存じの方も多いと思うが、観音菩薩にはいろいろな種類がある。一面二臂の尋常な姿をもつ聖観音からはじまって、十一面観音、如意輪観音、不空羂索観音、青頸観音、馬頭観音などとバリエーションに富む。

その中でも千手観音立像は、特別な存在だ。さまざまな持物をもつ40本の腕を左右に大きく伸ばして、ひろがり豊かな空間をたもち、頭上の化仏や背後の円光など、複雑な造形がかもしだす雰囲気は他に例がない。


千手観音立像1001躯のうち20号像(湛慶作)Nara National Museum 奈良帝室博物館 (Showa 8 - 1933) / Public domain

三十三間堂では、それが千一体も上下10段に安置されているのだから、構成される空間の濃密さは比類がない。複雑きわまりない造形を一箇所にこれほど多く集中する事例は、日本どころか、世界中にも見られず、その美的な効果は、空前絶後といっていい。

後白河法皇は依怙贔屓の権化みたいな人物で、政治家としては最低だったが、その審美眼は抜群だったようだ。

ちなみに、千手観音を守護する役割を演じている二十八部衆の配置が、いつの間にか間違ってしまっていたことが判明し、ごく最近、正しい配置に修正された。だから、以前、訪れたことのある方なら、正しい配置を御自身の眼で確認する楽しみもあるだろう。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

ページのトップへ

ウチコミ!