使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
田中 裕治
2020/10/08
厳しい条件に縛られた「分家住宅」
売るに売れない「マイナス不動産」には、いろいろなものがあります。その中でも行政手続きなどで苦労するため売りづらいのが、農地や市街化調整区域の土地です。中でも売却が難しいのが、市街化調整区域の「分家住宅」です。
分家住宅とは、農家などを営んでいた「本家」から分家した人が市街化調整区域に建てた家のことです。
本家・分家という言い方でもわかるように、分家住宅は誰でも建てられる家ではありません。市街化調整区域の土地を持っている所有者の子どもや孫など、分家住宅が建てられる人の条件が決められています。
具体的には、次のようになります。
・本家となる者の3親等以内の血族
・持ち家がないこと
・本家の跡取りが明確であること
など分家住宅を建てるにあたっては、厳しい条件があます。
この分家住宅は属人性が強く、使用できる「人」も限定されます。
それは、分家住宅建築の許可を受けた者、その配偶者及び直系卑属(子や孫)となります。
そのため分家住宅を売却しようとしたときには、何の手続き(用途変更の許可の取得)もしなければ、買主はその分家住宅を使用すること(居住含む)ができません(賃貸もできません)。
つまり、第三者がこの分家住宅を使用するためには行政から用途変更の許可をうけなければならないのです。この用途変更の許可には原則として売主の「やむを得ない事情」が必要となります。現金化したいという理由だけではまず許可がおりません。
また、売却する場合はそれを購入する側も、なぜその住宅を購入するのか細かく審査されるため、売買が難しい不動産になります。そのためほとんどの不動産業者は扱いを断ります。
そんな分家住宅の実例を紹介していきましょう。
【実例紹介】相続人も自由に使用できない市街化調整区域の分家住宅の売却(神奈川県横浜市)
駅からはバスを利用する田園地帯にある戸建/境界標が一部不明/市街化調整区域の分家住宅のため、建築不可物件(※現状では建物の使用もできない)/土地の地目が農地(畑)のまま/敷地内外に大量の残置物がある
ご相談は、お父さまが亡くなり相続した戸建住宅のある土地に、自宅を新築しようとした方からのものでした。
ご相談者が相続した古屋がある土地に新築の住宅を建てようと、ハウスメーカーに相談したところ、その不動産が市街化調整区域の分家住宅たったことが判明。ご相談者は自分では分家住宅の建替えの要件を満たせず、活用もできず、維持管理費がかかることからも持ち続けることもできないとのこと。そこでこの不動産を売却したいというご相談でした。
詳しくお話をお聞きすると、その物件はお父さまが住んでいた実家とのこと。ご相談者は“普通”の土地だと思い、自宅を新築しようハウスメーカーに相談したといいます。すると、ハウスメーカーからはこの建物は分家住宅のため、建物の建て替え及び既存建物の使用はできないと言われた相談者は、やむなくいくつか不動産会社に売却の相談をされました。
しかし、その相談した全ての不動産会社から「当該物件は分家住宅のため取り扱えない」と断られてしまったそうです。
こうしたお話をうかがい、市役所などでの物件調査の際、市街化調整区域で建て替え等の許認可をしている担当部署の方と再三、再四、「相談者である相続人による建て替えをさせて欲しい」と協議を重ねました。
しかし、ご相談者が行政で定める開発許可基準に適合しないため、「建物の新築(建え替え)、建物の使用もできないということはどうにもならない」旨の回答をいただきました。さらにご相談者が第三者へ売却してもその買主は、建物の使用、再建築はできないという状態です(売主が用途変更の許可要件を満たしていないため)。
また、法務局にて土地の権利関係を調査すると土地の地目が「畑」のまま。地目が「畑」などの農地で古家を解体してしまうと農地法の許可が必要になり、さらに売却が難しくなります。
そこで建物がある状態で農業委員会に「非農地証明書」の申請を行い、土地家屋調査士にご協力いただき、地目を「畑」から「宅地」に変更しました(地目変更登記の完了)。
さらに調べていくと、隣地にある第三者所有の地下車庫の固定資産税が、なぜかご相談者の物件に課税されていたことが判明。これを解消するために役所及び隣地所有者と協議を行い、所有権を正規のかたちに戻しました(隣地の地下車庫の固定資産税は隣地所有者に課税がされるように手続きを完了)。
こうした行政での調査、変更、測量と境界標の設置。また残置物の処理など売却するための準備を進めました。こうしたことを行っていく中でもいくつかのトラブルがあったものの問題を一つひとつ解消。こうした問題を解消して、改めて売却活動の開始することになりました。
建物が使えない「古家付土地」として販売を開始
売却活動は、建物の建築・使用ができないため、市街化調整区域で「建物の建築・使用ができない物件」だったため、そのことを考慮した価格設定で「古家付土地」として販売を開始しました。
すると、多くの問い合わせがあったものの、建物を使えない、建て替えができない(再建築不可)ということをお伝えすると、みなさんフェードアウト。予想はしていたものの、改めて難しい案件と感じさせられました。
それでもあきらめず、問い合わせて来られる方に説明を続けていきました。そんな中で以前よりつき合いのあった地元の不動産会社の代表者の方に紹介をすると「車両置場」として、検討してみようということになりました。
そうした販売活動が功を奏して、建物の建替え等ができない土地でありましたが、1300万円という金額で売却することができました。さらに売却にあたって売主様が相続不動産売却の際の譲渡所得税の特別控除の特例(相続した空き家売却時の3000万円特別控除)をご利用いただけるための方法を協議しました。
引き渡すに至るまでは、古屋の解体撤去や電柱の移設など対処すべきものもありましたが、これもトラブルなく終わり無事にお引き渡し、取り引きを終えました。
更地にして電柱も移動させた
分家住宅は属人的な建物のため、今回のように相続人であっても建て替えはもとより、使用することが認められない場合がある「負動産」です。しかし、さまざまな用途で土地が欲しいという需要はあります。要は売却に向けてチャレンジするかどうかです。
さらにこうした市街化調整区域の不動産では重要なポイントがあります。
それは今回ご紹介した実例のように市街化調整区域の戸建(古家付土地含む)で土地の地目が「農地」になっている場合は、必ず「建物があるうち(古家の解体前)に地目変更登記(農地から宅地への地目変更登記)」を完了しておくことです。
建物(古家)を解体したあとに地目変更登記をしようとしても農地扱いなるため、手続きが煩雑になったり、農地としてしか売却できなくなってしまう場合があるためです。
「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回 どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回 「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回 狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回 車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回 売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回 共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回 「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回 共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回 別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする
この記事を書いた人
一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。