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【家族信託活用実例】家族信託で遺したい人に財産を託す――子どもたち平等ではなく、面倒をみてくれる娘家族を安心させたい(2/2ページ)

谷口 亨谷口 亨

2019/09/28

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〈相談の要点〉
原さんの相談内容をまとめると、次のようになる。

・収益不動産であるアパートは、いずれ売却して子どもたちお金を分ける約束をしている
・自分自身は、娘家族と一緒に安心して暮らせる住まいを見つけたい
・成年後見制度は使わず、生活が回っていくようにしたい
・長男夫婦にもある程度のお金を渡して、自立してもらいたい
・次男にもある程度のお金を渡したい

〈提案〉
そこで原さんには次のような内容の提案を行った。

1) 不動産会社にアパートの管理を任せているとはいえ、築30年にもなるアパート経営を続けるには、メンテナンスや空き部屋など様々な問題が出てくる可能性があります。一方、3人の子どもたちはアパート経営を引き継ぐ意思がないので、アパートの売却は素早く行う必要があります。

2)アパートを査定したところ、土地・建物合わせて7000万円で売却できるとのこと。そこで売却代金7000万円のうち3000万円を信託財産として、これでファミリー向けマンションを一部屋購入しこのマンションには、原さんと娘家族が共に暮らします。購入したマンションも信託財産として、受託者を娘さんとし名義も娘にします。さらに第2受託者を娘の子(孫)にしておくことで、娘が先に亡くなるようなことがあっても、マンションの名義は孫娘に引き継がれます。

3)アパート売却代金の中から現金を長男(2000万円)、次男(2000万円)へ生前贈与として渡します。

〈提案のポイント〉
・信託財産にすると遺産分割協議の対象にはなりません。長男、次男が口を挟んでも分け方で揉めることにはなりません。また、将来、委託者の原さんが認知症になるなどして認知能力がなくなったとしても、すでに信託し所有権を移転しているので住まいの心配はありません。

・長男、次男それぞれへの2000万円の生前贈与は、受け取った金額が2500万円までだったら贈与税がかからないとする相続時精算課税制度を使って申告も済ませておきます。

・アパートの売却代金の内3000万円は信託財産としますので、これで購入したマンションも信託財産としたことで、贈与とはならず、贈与税はかかりません。ただ、原さんが亡くなったあとの相続時には相続税がかかりますが、贈与税に比べて税金額は低く、さらにマンションの評価額が下がっていれば税金額は抑えられます。

長男と次男、娘の相続額に500万円の差があるため、兄弟から不満も出ましたが、相続税額で考えると実質的には差がなくなること。また、原さんの世話を娘が行うということで納得。円満な相続ができました。

このように家族信託は、財産を渡したい人を特定して、分割についてそれぞれが納得する方法を考える手だてにもなる方法です。そして、被相続人が亡くなったあと相続人が揉めることを事前に防ぎ、安心して財産を引き継ぐことができるのです。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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