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テレワークによって仕事と子育てが両立できない女性たち①――課題に全力投球という価値観を変えさせたもの(2/2ページ)

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退職によるネガティブな状況変化を伝えても…

カウンセラーとして私は、今の在宅勤務を続けながらでも営業は可能ではないか、年収は確実に下がるし、子育ての大変な時期はあと数年で終わると、退職という選択のネガティブな面を取り上げて伝えてみました。しかし、A子さんは「私は人に会い、モノに触れ、目の前で対話をしなければ、顧客の気持ちをつかむことは難しいと分かった」と言い切り、「対面の営業と4歳の子育てが両立しないと分かった今、退職して別の道を探します」と退職の意思は変わりませんでした。

結局、A子さんは、カウンセリングに来て、何を伝えたかったのだろうと考えてみました。

私はA子さんに「時代の波に逆らうような選択で、周囲に賛成してくれる人がいなかったのでしょうか?」と聞いてみると、「そうですね」と即答します。

「今回のことは、子育てを経験した多くの女性が乗り越えてきた葛藤だと思いますが、私はA子さんの選択を支持しますよ。なぜなら、A子さんは、子どもが日々成長していく姿が分からないまま、時間だけが過ぎていくことをしたくなかったのではないでしょうか」

そう言うと、A子さんの膝におかれていた、使い込んだエルメスの手帳の上に、大粒の涙が落ちては滲んでいました。

A子さんにとっての「心の安全基地」

心理学が人の成長にとって重要と考える「愛着」いわゆる「心の安全基地」の最も重要な因子は、母親の感受性だとされています。その愛着が育まれて母となった人は、わが子の変化や兆候を見逃さず、素早く反応するといわれています。

A子さんに会ったときのなんとも言えない安定感は、その愛着からきているものかも知れないと思ました。

保育園の帰り道での子ども何気ない言葉から、子どもの成長を感じ取り、今という時間のかけがえのない瞬間を知ったA子さん。たとえ時代と逆行した選択をしたとしても、いつの日かまた活躍できる日が来る、そんな確信のようなものが私には感じました。

3カ月後、A子さんから「自宅から歩いて15分の小さなリフォーム会社の事務に転職しました」とメールが届きました。

【続き】テレワークによって仕事と子育てが両立できなくなった女性たち②
職業人として、母親としての棲み分けができず混乱

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この記事を書いた人

公認心理師 博士(医学)

大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。

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