【京都で愉しむセカンドライフ】五感で味わう日本酒――酒蔵めぐりの愉しみ
奥村 彰太郎
2020/12/09
文・写真/奥村彰太郎
日本酒の魅力
燗酒の美味い季節になった。
燗酒といっても様々な温度で楽しめるのが日本酒の魅力だ。日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、飛びきり燗と30度〜55度ぐらいの温度変化で味わうことができる酒は世界的にも珍しい。
日本酒に興味を持ったきっかけのひとつは、京都伏見を訪れたときだ。
伏見大手筋商店街にある「油長」という酒屋の奥のカウンターで伏見の酒の飲み比べをした。伏見というと「月桂冠」「黄桜」「松竹梅」など全国ブランドの酒が有名だが、伏見には20以上の酒蔵があり、生産量は少ないが美味い酒を醸している。
酒屋の店主の話を聞きながら、飲み比べをしていて、自分の好きなタイプの酒に出合うと嬉しくなる。「祝米」という京都産の酒米で醸した酒は、口あたりが柔らかく雅な味わいを感じて好きになった。それ以来、日本酒への興味が増し、酒蔵見学や利き酒会に参加する機会も増え、日本酒仲間が多くなった。米と水から作られる日本酒だが、銘柄によって味わいは千差万別、だから利き酒は楽しい。
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広がる「日本酒で乾杯」
京都市は「日本酒で乾杯を推進する条例」が日本で初めて制定された。地場産業振興の意味合いもあるが、日本酒の魅力と日本文化を見直そうというムーブメントだ。このことから酒造りが盛んな西宮市(兵庫県)、東広島市(広島県)、白山市(石川県)、南会津町(福島県)など全国各地で条例制定の動きが広がった。
日本酒の原料になる酒米は酒造好適米と呼ばれる。代表的な酒米は、山田錦、五百万石、雄町、八反錦などが挙げられる。酒米は食用米に比べて粒が大きく、酒造りに必要なデンプン質を多く含む「心白」と呼ばれる中心部分が大きいのが特徴だ。雑味を減らすために精米し中心部分を使うため、「精米歩合○○%」と表示される。
日本酒は、精米歩合により法律で名称が決められている。
精米歩合60%以下が吟醸、50%以下が大吟醸と表示できる。また、醸造アルコールを添加してないものを純米酒と呼び、この組み合わせで純米吟醸、純米大吟醸とラベルに表示できる。中には精米歩合20%以下の純米大吟醸が販売されているが、もちろん価格も高い。
精米歩合
日本酒のアルコール度数は15度程度が普通だが、加水していない原酒は19度前後あり、オンザロックで楽しむこともできる。長期貯蔵した古酒も熟成されて味わい深い。
酒器も日本酒を楽しむ重要ないアイテム。猪口、ぐい呑み、枡、冷酒グラスだけでなく、最近はワイングラスで出す店も増えてきた。ワイン同様、香りを楽しむのに適している。利き猪口は内側の底に青い蛇の目が描かれ、酒の色や透明度を見るための工夫だ。
伏見の酒飲み比べ
歴史と文化を感じる酒蔵めぐり
酒蔵を訪ねるのも楽しみだ。見学できない蔵が多いが、丁寧に案内してくれる蔵もある。
松本酒造は江戸時代から続く老舗。桂川の土手沿いに建つ蔵は大正時代に作られた木造で、登録有形文化財に指定されている。「蔵は老化しても蔵内は老化させるな」という扁額が酒蔵の入口にかかっていて、常に革新的な酒造りを行っていく気構えを感じる。「澤屋まつもと守破離」といった人気ブランドを醸している。登録有形文化財の迎賓館があり、庭には秀吉時代の橋脚の一部が庭石として使われて、座敷には円山応挙が描いたご先祖様の肖像画が飾られている。
松本酒造
1675年創業「月の桂」の増田徳兵衛商店は、伏見でも最古の歴史を持つ酒蔵。利き酒をワイングラスでいただいた後で、幕末の鳥羽・伏見の戦いの際に庭に着弾したという砲弾を見せてもらった。円錐形の鉄製で表面に円形の突起がついていて、手にするとズシっとした重さを感じる。
伏見にある「蒼空」の藤岡酒造は一旦廃業した蔵を、平成14年に5代目蔵元が再興した伏見の中でも小さな酒蔵。仕込み蔵のタンクがガラス越しに見えるバーカウンターがあり、蒼空ブランドの酒の飲み比べができる。
藤岡酒造の酒蔵バー
出町柳駅近くにある松井酒造は、「神楽 KAGURA」という銘柄を醸している。蔵見学にうかがった際、酒を搾る前の醪(もろみ)段階の濁り酒を試飲させてもらい、口の中でプチプチ感を味わうという貴重な体験ができた。松尾大社で毎年開催される「酒-1グランプリ」で、3年前に「神楽」が優勝している。
松井酒造の神楽
斎藤酒造の蔵開き
毎年10月下旬には伏見の「英勲」齊藤酒造や「富翁」北川本家などで蔵開きが行われるが、今年はコロナ禍で蔵開きなど様々な日本酒イベントも中止になった。
安心して、蔵めぐりができる日が来ることを願っている。
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この記事を書いた人
ファイナンシャル・プランナー&キャリア・カウンセラー
1953年東京生まれ、東京都立大学卒業、株式会社リクルートに入社。進学や住宅の情報誌の営業や企画・人事・総務などの管理職を務め、1995年マネー情報誌『あるじゃん』を創刊。発行人を務めた後、2004 年 ファイナンシャル・プランナー&キャリア・カウンセラーの資格を活かし、“キャリアとお金”のアドバイザーとして独立。企業研修の講師や個別相談を中心に活動中。大学の非常勤講師も務める。東京と京都のデュアルライフを実践中。