ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

空間と心のディペンデンシー

「幸せのかたち」についての一考察(2/3ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/02/29

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

それから3年ほど経った頃、N子さんから、久しぶりに外で食事でもしようと誘いがあった。集まった友人達はその席でN子さんが離婚したことを知った。どちらかと言えば、ふっくらとしていたN子さんが、痛ましいほどに痩せているのを見て、何があったのかと問うと、N子さんは、夫から精神的に追い詰められていたことを打ち明けた。

結婚してすぐに、営業職だった夫は仕事に悩むようになった。転職を考えるようになり、それにつれて、だんだんと、N子さんのやることなすことに小言を言うようになってきた。家事は女がするものだと主張し、共働きであるのに、家事一切をN子さんがやるようになった。食事の好みもうるさく、手料理にこだわる。そして、それについても味が濃い、種類が少ないなどことあるごとに、文句を言う。汚れや、家財道具の乱れを極端に嫌い、少しでも汚いと思うと、N子さんを叱りつける。

いかにも、N子さんのために言っているのだと、説き伏せるように言うので、N子さんは、ずっと、自分がいたらないから、叱られるのだと思いこんでいたそうだ。自分が悪いと思うからこそ誰にも言えず、仕事と家事に追われ、N子さんはやつれていった。

夫はハンサムで清潔感があり、女性の扱いも丁寧なのだが、几帳面で神経質なタイプだった。小さなことにこだわって、完璧を求めるため、物事が前に進まないことが多々あった。一方、N子さんは、持ち前の明るさと、おおらかさで、上司の覚えもめでたく、臨機応変に複雑な仕事をいくつもこなしていた。夫はそれも気に入らなかった。

始めに異変に気が付いたのは、N子さんの兄と母親であった。帰省したN子さんの不自然な痩せ方をみてN子さんを問いただし、内情を知った兄は、N子さんに、お前の結婚生活はおかしいと説いた。

離婚は、拍子抜けするほど簡単に進んだ。N子さんの両親と兄に、離婚に応じなければ訴えると迫られると、夫はあっさりと離婚届けにサインをした。それから、逃げるように、職場を変え、N子さんとの連絡を絶った。

次ページ ▶︎ | 「人間万事塞翁が馬」は起こる 

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

タグから記事を探す

ページのトップへ

ウチコミ!