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掃除も立派な修行

年末の大掃除はどのようにはじまったのか?(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2019/12/01

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掃除をするだけで悟を開いたブッダの弟子

ところで、仏教と掃除といえば、忘れてはならない人物がいる。チューラパンタカ(周利槃特=しゆりはんどく)である。ブッダの直弟子の一人で、十六羅漢の一人に数える説もある。ということは、優れた頭脳と人格の持ち主だったと思われがちだが、人格はともかく、頭脳のほうはからきし駄目だった。そのため、愚路という別名すらつけられていた。

「路」という言葉が入っているのは、チューラパンタカが「路で生まれた小さい者」を意味していたからだとされる。路で生まれた理由は、母親が不倫の果てに孕んだ彼を、実家に帰る途中の路上で産み落としてしまったからだったという。 

実は彼には頭脳きわめて明晰な兄がいて、先に仏弟子になっていた。その兄のすすめで、チューラパンタカも仏弟子になった。ところが、過去世の因縁ゆえに、頭がすこぶる悪く、弟子入りして4か月を経ても、短い詩句ですら一つも覚えられない。自分の名前もすぐ忘れてしまい、覚えられなかったという伝承もある。これにはさすがに兄も困ってしまい、修行の場から追い出して、還俗させようとした。
それを知ったブッダは、チューラパンタカに布を一枚あたえ、「塵を除く、垢を除く」ととなえながら、お寺の建物あるいは出家僧たちの履き物を掃除する修行を課した。この行を飽くことなく続けていくうちに、チューラパンタカは除くべき対象は、目に見える塵や垢ではなく、人間の誰もが内面にもっている貪瞋痴(とんじんち)の三毒、すなわち貪る心・瞋りの心・無知であることを悟った。そしてついに、煩悩をことごとく滅して、阿羅漢の境地を得たと伝えられる。

ちなみに、チューラパンタカの物語には後日譚がある。彼が亡くなった後、その墓からある植物が芽吹いた。それを食べると、物忘れがひどくなった。その植物の名前は茗荷(みようが)である。もちろん、まったくの俗説にすぎない。茗荷にはそういう成分は含まれていないどころか、むしろ記憶力の増大に欠かせない集中力を増す成分が含まれているからだ。

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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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