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大都市部地価は上昇の波へ 地価LOOKレポート2023年第1四半期分

朝倉 継道朝倉 継道

2023/06/23

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下落地区は2期連続でゼロに

6月16日、国土交通省が令和5年(2023)第1四半期分の「地価LOOKレポート」を公表している。令和元年(2019)第4四半期以降、3年ぶりに下落地区がゼロとなった前期に引き続き、今回も下落地区は無かった。日本の大都市部地価は「コロナ禍」時代を終え、ふたたび上昇の波に乗っている。

なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては当記事の最後であらためて紹介したい。

まずは、国内「全地区」における前回、前々回からの推移だ。

上昇 73地区(91%)
(前回71、前々回65)
横ばい 7地区(9%)
(前回9、前々回14)
下落 0地区(0%)
(前回0、前々回1)

このとおり、下落地区は2期連続で0地区=0%となった。コロナ禍のピーク時(2020年第3四半期)は、同じ数字が45.0%まで伸びていた。なお、「下落地区」とは、当該四半期において地価の下落が観察され、かつ当面の下落も予測されるといったエリアのことだ。

下落地区のデータを過去から辿ってみよう。

 
令和元年(2019) 第4四半期 0.0%
令和2年(2020) 第1四半期 4.0%(この期の冒頭1月に国内初の新型コロナ感染者を確認)
第2四半期 38.0%
第3四半期 45.0%(下落地区の割合がコロナ禍のもとピークとなった期)
第4四半期 38.0%
令和3年(2021) 第1四半期 27.0%
第2四半期 29.0%
第3四半期 30.0%
第4四半期 17.0%(この期まで全対象地区数は100)
令和4年(2022) 第1四半期 16.3%(この期より全対象地区数は80に削減)
第2四半期 6.3%
第3四半期 1.3%
第4四半期 0.0%(令和元年第4四半期以来の0%となる)
令和5年(2023) 第1四半期 0.0%(今回)

なお、括弧内に記したとおり、上記の間に地価LOOKレポートの調査対象地区数は一度変わっている。令和3年(2021)第4四半期までが100地区、令和4年(2022)第1四半期からは80地区となっている。

「6%以上」の急上昇地区が13期振りに出現

今回の地価LOOKレポートでは、「6%以上」の地価上昇と評価された、いわば急上昇地区が令和元年(2019)第4四半期以来13期ぶりに出現した。

場所は、福岡県福岡市中央区の「大濠」地区。住宅系地区となる。同市中心部に隣接する、マンション需要に沸く交通至便なミッドタウンエリアだ。

不動産鑑定士によるコメントを抜粋、要約してみよう。

  • 福岡市内のマンション分譲価格は依然として上昇傾向が続いている。同販売率も高水準を維持
  • 優良マンションの開発が可能なエリアでは、開発用地の需給逼迫が続いており、当地区(大濠地区)周辺および同区内や隣区での取引も、これまでの水準を大幅に上回る高値となっている
  • 当期の市況は当面継続し、将来の地価動向は上昇で推移すると予想される

いまの福岡市の勢いが集約されたエリアといっていいだろう。

商業需要に沸く京都駅周辺

なお、今回の地価LOOKレポートにおける上昇73地区の上昇率別内訳はこうなっている。

「6%以上」 …1地区
「3%以上6%未満」 …1地区
「0%超3%未満」 …71地区

このうち「6%以上」の1地区は、いま述べたとおり福岡の大濠だ。

さらに、これに続く「3%以上6%未満」の評価を受けている1地区が、京都市下京区の「京都駅周辺」となる。こちらは商業系地区だ。

不動産鑑定士によるコメントをこちらでも抜粋、要約してみよう。

  • 当地区は京都の玄関口である京都駅烏丸口周辺に位置し、オフィス、店舗が建ち並ぶ高度商業地域である。オフィス賃貸市場では総じて新規賃料水準が高値安定の横ばい
  • 国内観光客、外国人観光客ともに増加傾向が続いており、京都駅周辺のホテルでは宿泊平均単価が大きく上昇、稼働率も回復傾向にある
  • 飲食店舗、土産物等の物販店舗の出店意欲も強く、店舗賃料も高値安定の横ばい状況にある
  • 老朽化したビルの建替計画や高値取引が散見され、投資物件の取得需要も堅調

このように、京都らしく、復活したインバウンド需要の影響が大きく読み取れるものとなっている。

上昇のみで、横ばいさえ無い状態が1年続く住宅系地区

地価LOOKレポートの対象地区は、住宅系地区と商業系地区に分かれている。現在、その数は住宅系地区が23、商業系地区が57となっている。

このうち、コロナ禍の影響が少なく、なおかつ先んじてそこから脱したのが、住宅系地区だ。その差は以下のような数字に表れている。

「コロナ禍期間における地価下落地区の最高割合」
住宅系地区 18.8% … 令和2年(2020)第3四半期
商業系地区 57.4% … 同上
「コロナ禍期間における最大下落率」
住宅系地区 0%超3%未満 … 連続4期で発生(20年第1~第4四半期)
商業系地区 3%以上6%未満 … 連続5期で発生(20年第2~21年第2四半期)
「下落地区が0となった期」
住宅系地区 令和3年(2021)第1四半期
商業系地区 令和4年(2022)第4四半期
「全地区が上昇地区となった(横ばいも消滅した)期」
住宅系地区 令和4年(2022)第2四半期(以来、今期で1年となる)
商業系地区 未だ到来せず(今期は横ばい7地区)

このとおり、コロナ禍ピークの頃には全体の6割近くが下落地区となっていた商業系地区に対し、住宅系地区は約2割に留まった。

さらに、商業系地区において下落地区が無くなったのはやっと前期で、住宅系地区に遅れること7四半期後(1年と3四半期後)のことだった。

大都市部の地価に焦点を定めた場合におけるコロナ禍は、街の人流を直撃した、まさに「商業活動に厳しい」ものであったことが判る。

地価LOOKレポートとは?

最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもってわれわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

以上、当記事で紹介した今回分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。

令和5年第1四半期分(23年1月1日~4月1日)地価LOOKレポート

(文/朝倉継道)


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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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