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脱コロナが鮮明に。2023年「公示地価」 外資の進出がもたらした上昇も

朝倉 継道朝倉 継道

2023/04/06

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コロナ前への回復傾向が顕著

この3月22日、国土交通省が2023年1月1日時点の公示地価を発表している(令和5年地価公示)。「コロナ前への回復傾向が顕著となった」と、コメントされているその内容をまずは辿ってみよう。

1.全国

全国平均は、全用途、住宅地、商業地のいずれも2年連続の上昇となった。上昇率も拡大している。(各数字は前年比上昇率、カッコ内は前年のデータ。2以下も同じ)

「全国」平均
全用途 1.6%(0.6%)
住宅地 1.4%(0.5%)
商業地 1.8%(0.4%)

2.三大都市圏

三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)の平均と圏域ごとの数字では、名古屋圏の上昇率の高さと、大阪圏・商業地の横ばいからの離脱が目につくところとなっている。

「三大都市圏」平均
全用途 2.1%(0.7%)
住宅地 1.7%(0.5%)
商業地 2.9%(0.7%)
「東京圏」
全用途 2.4%(0.8%)
住宅地 2.1%(0.6%)
商業地 3.0%(0.7%)
「大阪圏」
全用途 1.2%(0.2%)
住宅地 0.7%(0.1%)
商業地 2.3%(0.0%)…前年横ばいからの離脱
「名古屋圏」
全用途 2.6%(1.2%)
住宅地 2.3%(1.0%)
商業地 3.4%(1.7%)

3.地方圏

地方圏とそのうち地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)、さらに地方四市を除く「その他」を見ると、四市の高い上昇率に加え、その他地域の推移にも注目が集まる結果となっている。

「地方圏」平均
全用途 1.2%(0.5%)
住宅地 1.2%(0.5%)
商業地 1.0%(0.2%)
「地方四市」平均
全用途 8.5%(5.8%)
住宅地 8.6%(5.8%)
商業地 8.1%(5.7%)
地方四市を除く「その他」平均
全用途 0.4%(▲0.1%)…3年ぶりの上昇
住宅地 0.4%(▲0.1%)…28年ぶりの上昇
商業地 0.1%(▲0.5%)…3年ぶりの上昇

コロナ前との比較、多くで今回が上回る

続いて、今回の上昇率を「コロナ前」と比べてみる。全用途の数字で比較していく。コロナ前=2020年の上昇率となる。

「全国」平均(全用途)
今回 1.6%
コロナ前 1.4%(今回がコロナ前を上回る)
「三大都市圏」平均(〃)
今回 2.1%
コロナ前 2.1%(コロナ前と同じ)
「東京圏」(〃)
今回 2.4%
コロナ前 2.3%(今回がコロナ前を上回る)
「大阪圏」(〃)
今回 1.2%
コロナ前 1.8%(コロナ前を上回れず)
「名古屋圏」(〃)
今回 2.6%
コロナ前 1.9%(今回がコロナ前を上回る)
「地方圏」平均(〃)
今回 1.2%
コロナ前 0.8%(今回がコロナ前を上回る)
「地方四市」平均(〃)
今回 8.5%
コロナ前 7.4%(今回がコロナ前を上回る)
地方四市を除く地方圏「その他」平均(〃)
今回 0.4%
コロナ前 0.1%(今回がコロナ前を上回る)

見てのとおり、8つのうち6つで、今回の数字がコロナ前を上回っている。完全に上回り切れなかったのは大阪圏のみに留まる。コロナ禍からの離脱による経済社会活動の正常化と、その勢いを如実に示す結果といえるだろう。

なお、今回の公示地価においての全国・全用途での上昇地点の割合は58.0%となる。コロナ前(20年)の48.5%をやはり大幅に上回っている。

「外国」がキーワードの上昇要因に注目

今回の公示地価の平均的上昇、さらに地方への広がりについては、述べたようなコロナ禍からの離脱を大枠として、その内側においては地域、地域によって、さまざまな要因が見られる。

たとえば――

市街地再開発、交通インフラの整備、人流・消費の回復、マンション用地需要、大型商業施設等の開設・開業、富裕層等による移住先・別荘地需要 など

実際、さまざまだ。

そうした中、注目したいのが、いずれも「外国」がキーワードとなる2つの要因となる。お馴染みの「インバウンド」と、さらに「外資」だ。

これら、海外からもたらされる人の流れ、お金の流れは、人口減少下における今後の日本経済にとって、活性化を考える上でますます重要なファクターとなっていくはずのものだ。

1.インバウンド

いわゆるインバウンド需要(訪日外国人旅行消費額)が、わが国の国内総生産(GDP)に占める割合は、コロナ前の頃でも1%程度などといわれ、実はさほど大きなものではない。

しかしながら、そこには当然のこと裾野の広がりもある。関連するサービスや、生産にかかわる人的需要、資源需要、設備需要などもそうであるし、影響を受けやすい地価もそのひとつだ。

世界的なコロナ禍終焉によるインバウンド回復への期待を反映した地価の上昇は、今回の公示地価においても目立つトピックとなっている。

国交省が「特徴的な地価動向が見られた各地点」として、大幅な地価上昇や下落からの回復等を指摘している地区のうち、インバウンド需要に関わりの深いものを挙げると以下のとおりとなる。

上昇幅拡大 東京都台東区・浅草地区 (前回1.3%上昇から今回8.8%上昇へ)
静岡県熱海市・熱海銀座周辺 (5.2%→11.7%)
横ばいから上昇へ 京都府京都市東山区・祇園地区 (0.0%→6.3%)
愛媛県松山市・道後温泉地区 (0.0%→0.9%)
下落から上昇へ 石川県金沢市・武蔵町地区 (▲2.1%→1.4%)
岐阜県高山市・古い町並地区 (▲9.6%→1.8%)
大阪府大阪市中央区・道頓堀地区 (▲15.5%→1.0%)(※)
奈良県奈良市・近鉄奈良駅近接地区 (▲1.4%→6.3%)
島根県出雲市・出雲大社前駅近接地区 (▲0.2%→0.7%)
広島県廿日市市・宮島地区 (▲1.6%→3.2%)
下落から横ばいへ 大阪府大阪市中央区・道頓堀地区 (▲10.9%→0.0%)(※)

(※ …2つある道頓堀地区は同じではなくそれぞれ別地区)

コロナ禍終焉の状態が今後継続する場合は、各地の観光地がこうした動きを追っていくことになるはずだ。

2.外資

今回の公示地価によって、地元だけでなく全国レベルのインパクトを放つ話題となった件を挙げたい。

世界的半導体メーカー、台湾・TSMC(台湾積体電路製造)の工場進出が、進出先である熊本県菊池郡菊陽町の地価を大きく押し上げているだけでなく、影響は周辺にも及んでいる。

菊陽町(上昇率) 住宅地 9.7%
商業地 21.7%
合志市(〃) 住宅地 7.1%
商業地 9.8%
大津町(〃) 住宅地 5.6%
商業地 16.8%

(合志市、大津町は菊陽町に隣接。同県内)

TSMC(※)のみで約1,700人、周辺を含めて7~8千人規模の雇用創出が見込まれるとされる中、24年末までの稼働開始に向け、現在、巨大な工場の建設が進んでいる。

(※ …国内での生産を行う子会社としてはJASMが設立された)

そのため、地元では集合住宅向けの土地需要が急増しているほか、関連企業等による用地需要との競合も相まって、地価の上昇にますます拍車がかかっているという。

2023年公示地価について、さらに詳しくは下記リンク先にて資料を確かめられたい。

国土交通省発表資料「令和5年地価公示
同 「令和5年地価公示の概要
48-7 地方圏
49 特徴的な地価動向が見られた各地点の状況

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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