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実は法的根拠がある 賃貸住宅オーナーが入居者からのクレームに対応しないといけない理由(1/2ページ)

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イメージ/©︎drozdirina・123RF

「苦情はこっちに言わないでくれ」は不法行為?

近年は、賃貸住宅経営を「事業」として行い、かつ、その自覚もしっかりと備えた賃貸住宅オーナーが増えた。いわゆる投資型オーナーだ。そのため、以下のような困った話をあまり聞くことがなくなった。

例えば、こんな話だ。ある日、入居者から苦情が寄せられる……

「アパートの隣の部屋の騒音に悩んでいます。しょっちゅう人を集めて夜中まで騒ぐんです。眠れないので、やめるように大家さんから注意してくれませんか」

これに対し……

「私じゃなく、直接騒いでいる本人に言ってください。住んでいる人同士の問題ですから。実際、騒音がそんなにひどいのか、そちらに住んでいるわけでもない私には判断がつかないので」

こうしたケースは、オーナーの多くがよい意味で賃貸経営を商売と理解し、入居者を顧客と位置付けるようになったこと、さらには苦情処理を委託できる管理会社の導入が増えたことによって、近ごろはほとんど耳にしなくなった。「すっかり昔話になった」と、いってもいいだろう。

ただ、そうなると……こんな理解をする人も出てくるかもしれない。

「賃貸住宅の入居者間での苦情やトラブルについて、解決のお世話をしてやるというのは、要はオーナーの事業者としてのサービスなんだな。もっといえばボランティアか」

いや違う。それは違うのだ。

多くのオーナーにとって、思いがけない答えかもしれないが、実はこのことにはちゃんと法的根拠がある。

つまり、さきほどの苦情のように、賃貸住宅に住む入居者が、その隣人である別の入居者に対し、夜眠れないとまで言わせるほどの迷惑をおよぼしているのが事実であるとして、オーナーがその解決を頼まれたにもかかわらず無視すると、法も無視したことになる。要は立派な不法行為となるのだ。ぜひ注意したい。

オーナーに課された「物件を使用収益」させる義務

その根拠をズバリ示そう。民法第601条となる。

(民法第601条)
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」

ポイントは「使用及び収益を相手方にさせる」との部分になる。つまり、ここでは当事者の一方たる賃貸人=オーナーが、契約の相手方である賃借人=入居者に対し、物件の「使用及び収益」をさせることこそが「賃貸借契約なのだ」と規定していることになる。

すると、説明するまでもない。さきほどの苦情を訴えている入居者は、その内容が事実であれば、隣の入居者による迷惑行為のせいで、契約に保証された使用及び収益=「使用収益」ができずに困っていることになる。

なお、ここでいう使用収益とは、当然ながら入居者がこの物件を住居として、安全・安心、かつ、平穏・静謐に暮らす場にできるということだ。つまりは「まともに暮らせる」ということだ。

正しく賃貸借契約を交わし、賃料と引き換えに物件を使用収益する権利を得た入居者に対し、オーナーがそれを提供できないでいるということは、すなわち上記に違反する状態が生じていることとなるわけだ。

ましてや、「私じゃなく直接本人に言ってくれ」との冷たい対応など、論外の話となる。こうした“不作為によるオーナーの債務不履行”は、同じく民法第415条、第709条、第710条に照らし(下記)、損害賠償義務の対象ともなってくるだろう。

(民法第415条1項)
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」

(同 第709条)
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

(同 第710条)
「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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