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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#22 大都市でこれから深刻化する賃貸空き家の実態とその活用  (2/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2021/06/14

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マーケティングを意識した経営が必須

賃貸住宅の建設当初は、アパート会社やマンション会社による賃料保証などで経営的には安定するが、10年以降になると、保証金額がなくなったり、改定して低額になったりすることが多い。また、設備などの改修にあたってアパート建設会社の指定業者による工事があらかじめ定まっていて、工事を行わなければ賃料保証が受けられないといったケースも目につく。

また、郊外エリアでは、建設したアパートの周辺で次々と同じような新築アパートが林立して、結果として過当競争を招き、空き家率の悪化やテナント賃料の低迷を招いているようだ。

賃貸住宅経営で求められるのは、常にマーケティングを意識した経営を行うことだ。建設する際には、相続対策ばかりに目を奪われて建設することだけが目的化し、賃料保証があるから大丈夫だという甘言に惑わされて、契約の中身(どんな状態で保証がなされるのか、どういった事態になると保証されなくなるのか)をよく確認せずに契約をしてしまうなど、現場では多く見られる光景だ。

設備の更新や大規模修繕に関して、特段の約束事がないからといって、こうした更新や修繕を怠ることが続くと、マーケットでの競争力が落ちてしまい、既存テナントの解約退去や、賃料の大幅な値下げを余儀なくされる。

よく大家と管理会社の会話に、テナントを入れるために「共用部などの設備の更新や、修繕をしませんか」と管理会社側が勧めると「テナントが入居してくれるならやる」という大家が多い。鶏と卵の議論だが、テナントを呼び込むために積極的な投資を行っていくことも賃貸経営の要諦だ。

ビジネスホテルなどでも、客室のリニューアルは10年から15年ごとに行っている。賃貸住宅でも、「まだ使えるから」とか「きれいに掃除しているから大丈夫」といった、大家目線での判断は危険である。

現在の入居者は生活レベルがどんどん向上しているがゆえに、これまで住んでいたアパートやマンションと比べて、質が落ちることにはNOを突き付けることが多い。気を付けたい観点だ。

これからやってくる大量相続時代

首都圏では、これから大量相続時代を迎えることは意外と知られていない。来年から第一次ベビーブームと呼ばれた1947年から49年に生まれた団塊世代が75歳の後期高齢者に仲間入りしはじめ、2024年末には全員が後期高齢者となる。この世代は出生数で合計805万5000人にのぼり、現在でも617万9000人が生存していて、シルバー世代の代表的な存在となっている。これに対して17年から19年の出生数は合計で272万9000人であるから、そのボリュームの大きさが分かるというものだ。

どんなに元気でも人間には寿命がある。そしてこれからの問題として大きくクローズアップされてくるのが、団塊世代のおよそ4分の1が住んでいるといわれる首都圏1都3県での大量相続の発生である。

彼らの相続人全てが親の残した家に住むわけではなく、かなり多くが売却されて賃貸住宅に供されたり、賃貸住宅への有効活用を考えて建て替えなどが行われることが予想される。つまり賃貸マンションやアパートの新築予備軍が、空き家率は低いものの空き家数、それも賃貸住宅の空き住戸が多い首都圏で、大量に存在していることになるのだ。

これからの激動に備えて対策は早めに打つのが肝要である。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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