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底地と借地の売却で重要なのはタイミング

田中 裕治田中 裕治

2020/11/18

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底地(貸宅地)が売りづらい理由

相続する不動産にはさまざまな土地があります。住んでいた自宅の土地・建物から使っていない空き家の土地、共有名義の土地、農地、別荘、山林などなど。活用できる土地であればいいですが、「正直なところ相続しても……」という土地もあります。

そんな相続した土地の中でも、厄介なのが、貸している土地(貸宅地・底地)や家付きの借りている土地(借地)です。こうした貸宅地は土地所有者(地主)が所有権を持ち、借り主(借地人)が借地権を設定しています。

本来であれば、所有権を持っていればその土地を自由にできますが、人に貸している土地(貸宅地)は、所有者だからといって自由に使うことはできません。もちろん、所有者は土地が自由に使えないものの地代収入(借地料)が入ってきます。とはいえ、土地の固定資産税は土地所有者(地主)が支払わなくてはならないため、相続が発生した場合など売却したいと考える人も多いのです。

一方、地主の許可は必要になりますが、借地権を持っている人(借地人)は、その土地に自由に家を建てたり、倉庫を建てたりすることができます。しかし、土地そのものが担保にできないので評価が低くなり、新しく家を建てようにもローンが組みづらく、建て替えたいと思っても、その資金繰りで苦労し、活用しづらい面があります。そのため土地が借地で使用していない家を相続した人もまた、売却しようと考える人もいます。

とはいえ、所有者(地主)がその土地(底地権)だけを売却しようとしても、その土地は自由にできるわけではないので、簡単は売れません。しかも、自由に使えるわけではないので、底地の価値はとても低く、土地の価格は所有権の場合の4分の1ぐらい、つまり、2000万円の評価がある土地でも、底地になってしまうと500万円ほどになってしまいます(※実際は地域や地代により異なります)。

一方、借地人が借地権付き建物として売却するのは地主の承諾が必要になります。また、相続物件では建物が老朽化していることも多く、借地権付き建物も売りづらい不動産です。

こうした底地、借地権の土地を売りたい場合は、所有権と借地権をまとめることで売却しやすくなります。そのため地主が借地権を買い取る、あるいは借地人に底地を買い取ってもらうのが解決の近道になります。

【実例紹介】相続した借地権の売却からはじまった所有権とセットの売却(神奈川県川崎市)



神奈川県横浜市の物件。駅徒歩圏に所在し、土地は借地権。建物は老朽化しており、境界標が一部不明

ご相談を受けたのは、相続コンサルタントからのご紹介の方で、お母さまが亡くなられ相続された借地権のご実家の売却でした。

こうしたケースでは、はじめに紹介者の相続コンサルタント同席の上、現地でのお客様との打ち合わせ、現地調査、売却についてのご意向をうかがいます。

そこで私からは不動産のご売却の流れ、相場、注意点をご説明します。そして、お客様に「売却については、地主さんにひと言お伝えください」とお話させていただきました。というのも、借地権付建物の売却は売却時に土地所有者(地主)の承諾が必須で、地主さんより借地権を勝手に売り出していると思われないようにするためです。

お客様より正式にご売却をお任せいただいたあと、すぐに行政機関で物件調査を実施。現地調査で、一部の境界標がないなどを確認しましたが、行政機関での物件調査では、特に問題となる点はありませんでした。

物件調査後、お客様へのご紹介図面を作成し、売却活動を開始しました。

借地権付建物のため、周辺の所有権の物件と比較し、割安感のある価格にしましたが、買いたいというお客様や、他社さんからのお問い合わせ、ネットを使った募集でもなかなか具体的なお話をいただくことができませんでした。

やはり、借地権付建物の場合、新築戸建以外は担保評価の関係で金融機関からの融資が利用しづらいということもあって、興味を持っていただける方の絶対数が少ないという現状があります。

そうした中でお客様とご相談の上、販売金額を少し下げていただくなどしてもらい、私のほうで何とか具体的な購入希望者をお探しすることができました。

「売却は承諾できない」――地主さんからの意外な答え

購入希望者との諸条件がまとまったところで、売買契約を締結。その後、お客様とご一緒に地主さんを訪問し、買主様がどのような方なのかをご説明し、借地権売却時の承諾にかかる諸条件についてのお話をして、売主様より「借地について、売却をしたいのでご承諾をお願いします」と地主さんにお伝えしました。すると、地主さんからは「売却については、承諾しない」という衝撃的なお答えが返ってきたのでした。

地主さんは「お客様が借地人だから借地している。第三者に借地人が変わることは承諾できない」というのです。それでも何度もお話し合いを続けることで、当初は頑なに拒否され続けましたが、少しずつお話を聞いてもらえるようになりました。

そして、最終的には地主さんから「借地権の譲渡を承諾するのではなく、私が所有している土地の所有権(底地)も一緒に買い取ってくれるなら、協力します」とお話をいただくことができました。

ただ、地主さんが提示された土地の所有権(底地)の金額はかなり高額のものでした。その後、買主様に底地購入をお願いし、価格調整を行います。

話がなかなか進まず、そこで売主さんに「現状のままでは、地主さんからの譲渡承諾の取得が困難であるため、このままでは契約が解除となってしまいます。それであれば、地主さんのご意向も酌んだかたちで組み立てをしてはいかがでしょうか」とご提案し、これが動き出すきっかけになります。

まず、買主様より再度、所有権としての購入金額のご提示をいただくこととしました。

とはいえ、買主様の購入金額では、地主さんのご希望の金額を捻出することができず、結果的に、お客様(売主/借地人)さんの売却金額が下がるということになりました

しかし、売主様は「多少手取り金額が下がっても、子どもにこの煩わしい借地権という不動産を残したくない」とのことで、話をすすめ、お話をまとめることができました。

その後、確定測量を実施し、隣地と相互に越境が発生しないところに境界標を設置し、全ての境界線を確定。買主様の決済条件をクリアさせ、借地権付建物と土地の所有権(底地)を同時に売却(お引き渡し)することができました。

そもそものお話は、借地人であるお客様からの借地権売却のご相談でした。しかし、協議を進める中で、地主さんからも土地の所有権を売却したいというお話になり、無事に案件を解決しました。

借地権は、所有権と比較して価格は低くなりますが、市場において流通性があります。一方、土地の所有権(底地)については、市場ではほとんど流通することはありません。かつ、相続税評価額だけが高い、相続不適格物件となります。

そのため底地は、借地人さんが売却されるときにそれに便乗し、売却することで流通しやすくなり、高い金額で売却することができます。
実際、この案件でも単純に底地だけで売却するよりも2倍以上の金額で売却することができました。

このように底地権を高く売却するコツは、ずばり「タイミング」なのです。

「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回   どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回   「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回   狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回   車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回   売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回   共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回   「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回   共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回   別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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