共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
田中 裕治
2020/06/13
売却可能でも、まとめて売った方が断然オトク
不動産の売買、仲介をしているとさまざまな物件の相談が持ち込まれます。そんななかでお問い合わせいただくのが、
「共有名義なっている土地・建物の自分の持ち分だけを売却できないか」
というお話です。共有名義の不動産で自分の持ち分だけでは売却できないと思っている人は、意外と多いのです。
共有名義の不動産の持ち分売却はできるのか――。
結論からいってしまうと、自分の持ち分だけの売却は可能です。また、持ち分だけを買い取ってくれる不動産会社もあります。
ただ、自分の持ち分だけを売却しても、その物件そのものの売却や賃貸、建て替えは、原則として共有名義者全員の同意が必要になるため、買い取ってくれるところは少ないのが現実です。しかも、売却はできても、その価格は安くなってしまいます。
具体的には、持ち分だけを売却する際の相場は物件価格の10%~20%前後になります。
つまり、3000万円の物件で、持ち分が2分の1であれば、
1500万円×10%→150万円
1500万円×20%→200万円
になるというわけです。
ですので、なるべくなら持ち分だけを売却するのではなく、共有名義人全員で話し合って同時に同じ買主に売却したしたほうがゼッタイによいのです。
しかし、そうはいかないのが人の常。なかでも相続では、合理的に考えれば双方が話し合あって円満に解決すれば、両者ともに損はないのに、感情の行き違いがあると、なかなか冷静な判断ができなくなってしまうもののようです。
相続トラブルでそれぞれが持ち分を売却、その結果とは?
今回ご紹介する方も相続のトラブルが原因になって、相談に来られた方でした。
相談に来られたのは2人姉妹の妹さんで、お母さんが元気なときはとても仲がよかったということでした。しかし、そのお母さんが亡くなり遺産分割での意見の相違が理由で揉めてしまったとのこと。
結果的に建て替えができない自宅の持ち分を2分の1ずつに分けて、共有名義としました。そして、相続が済んだあとは一切の連絡も取っていないという状況になってしまったといいます。
それから1年ほど経つとお姉さんが自分の持ち分2分の1をある法人に売却されました。そのため相談者の妹さんも所有する持ち分2分の1の売却をいくつかの不動産会社に依頼したそうですが、建て替えができないなどいくつか問題がある、持ち分だけでは売れないと断れたということでした。
ご本人の希望は、お姉さんが売却した法人とは交渉したくなく、わずらわしいことは一切なしで、持ち分だけを処分(売却)したいということでした。
依頼を受けて調査したところ、大きな問題は接道状況だけでした。そのほかにも隣との境界標が不明な部分が多かったり、建物内に大量の残置物はありましたが、それは大きな問題ではないと判断。
ご相談者と協議を行い、ご相談者(売主)の「契約不適合責任免責(瑕疵担保責任免責)」「設備の修復義務免責」「残置物の所有権の放棄」「境界非明示」などを契約書に記し、当社が購入しました。
購入後、そのままではどうにもならないため、当社では弁護士を立ててお姉さんが売却した法人を相手に共有物の分割訴訟を開始。「競売による売却」で決着しました。
これは裁判所の判断で当社が所有している持ち分ともう一方の法人が所有している持ち分についての処分方法を決めるもので、裁判所での処分方法はケースバイケースになりますが、このケースでは、計画していたとおり「競売で売却実施」というかたちで終わらせることになりました。
競売では建て替え不可、境界標も一部なく、残置物がある状態でしたが、およそ750万円で売却(応札)することができました。
ただ、最終的に処分できるまでには約2年、それ相応の費用がかかってしまいましたが。
この案件のポイントは、やはり「相続トラブル」ということがいえるでしょう。
自宅については姉妹それぞれの思いがあって意見が合わなかったわけですが、結果的にお姉さんも、妹のご相談者も売却されてしまったわけです。最初から2人で話し合って、同時に同じ買主に対して売却していれば、持ち分だけの価格ではないきちんとした価格で売ることができたはずです。
相続では感情的なことも入ってくるため、冷静になれない場合もあります。しかし、感情的になってしまうと冷静な判断ができず、大きな損をしてしまうことが多いのです。こうならないためにも、事前に相続関係にある方々において話し合いをしておくことがとても重要になると思います。
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第1回 どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回 「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回 狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回 車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回 売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回 共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回 「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回 共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回 別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする
この記事を書いた人
一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。