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売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で

田中 裕治田中 裕治

2020/05/19

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イメージ/©︎123RF

農地の固定資産税は安くても、相続税は高い

「相続で田んぼや畑を取得したけれど、農業をしないので処分したい」

こうした相談を受けることがしばしばあります。相続した土地の処分でやっかいなのが、こうした農地です。農地には2つの種類があって、農地以外に利用できない農地と、農地以外の用途に利用できる農地があります。農地以外に利用できない農地は、当然ながら農家か、農業法人への売却しかできません。ですから、処分するにはこうした売却先を探すしか方法はありません。これは賃貸にする場合も同様です。そのためこうした農地の売却はハードルが高くなります。

一方、転用可能な農地(農地以外に利用できる農地)は農地として農業委員会の許可を得て、売却したり貸したりする以外に、駐車場、資材置き場、太陽光発電、風力発電などの用途に使用する土地として売却したり、賃貸借契約を結ぶことが可能です。そのため農業専用地域(農地以外に利用できない農地)に比べて、売却しやすくなります。農地の処分がこのように厳しい理由には、農地法と言う厳しい法律が関係します。これにより売却や農地以外の用途への変更(農地転用)などが制限されているのです。そのため、そういった規制を受けている農地は、固定資産税が安いということがあります。

例えば、以前担当した愛知県知多郡の3000㎡の農地では、固定資産税が年間1万円ほど。いかに固定資産税が低くされているかがお分かりかと思います。しかし、これが相続税評価になると、実際の売却価格の何十倍になることがほとんどです。先ほどの愛知県知多郡の農地では、売却価格が20万円だったにもかかわらず、相続税評価は240万円になりました。つまり、相続税評価では20万円の土地が240万円の評価になってしまうため、相続税も高くなるというわけです。そんな農地の相続が予想される方は、早め早めの対応をおすすめします。

次ページ ▶︎ | 実例 農地の売却での思わぬ“落とし穴” 

【実例紹介】農地の売却での思わぬ“落とし穴”――根気と地元ネットワークがカギ(愛媛県今治市)

現在は首都圏に住み、地方の実家の農地を相続。売却もできないため、そのまま毎年の固定資産税を払い続けているという方も多くいます。しかし、そうした方も自分の子どもには残せないと、売却をしたいとお考えの方が増えています。今回ご紹介する相談者もそうで、ひとまず相続をして、12万円以上にもなる固定資産税を払い続けていました。そのため「タダでもいいから処分してほしい」とご相談にいらっしゃいました。

当該物件は、1)市街化調整区域の農振農用地のため建物の新築ができないうえに農地としてしか使えない、2)近くには鶏舎があって臭いがきつい、ということから複数の不動産会社から「売れない」と言われたということでした。

詳しいお話をうかがったあと、今治市役所や市内の土木事務所、土地家屋調査士などをまわり法令上の制限などの調査を行ったところ、この土地は持ち主の祖父が購入されたときは市街化調整区域に指定されていなかったとのこと。しかし、祖父、父の代で建物の新築をせずに放置してきたため、建物が建てられない農地が出来上がってしまったということでした。また、農用地であるにもかかわらず、固定資産税が高い理由は、50年前にご購入した際に農地法の5条許可を取得していたため、その時点から現在と同等の「宅地並み課税」の固定資産税がかかっていたことも分かりました。

宅地並み課税の土地は、建物を建築すれば軽減措置が受けられますが、更地の場合、高額な固定資産税となってします。

現地を見に行くと隣に農家、道路向かいには鶏舎。前面道路は広く、見渡す限り農地が広がっています。聞いていた通り、鶏舎の臭いがきつく、住むのは難しい物件でした(建物の建築はできませんが)。現地調査後、隣の農家を訪問し、売却の話を伝えるとともに、地域的なこと、農地のことをうかがいます。話をしていくなかで「条件が整うのであれば、購入も検討する」とのこと。売却物件の隣には、今回の売主様のほかに家庭菜園として利用されている方の農地があることもわかりました。その方を訪ねると、「今後、子どもたちには残せないから一緒に売却できないか」と相談を受けました。


・土地面積631㎡
・境界標が不明
・第三者が使用していた形跡あり
・市街化調整区域の農用地のため、建築不可
・毎年の固定資産が12万円あまり


通りの左が当該物件、向に鶏舎。きれいに整備はされているが臭いはきつい

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農地の売却は農家に聞け

このお話を隣地農家にすると、その方の息子さんが購入することで合意しました。しかし、話を進めていくと、その方では農地法の許可が下りないとのこと。理由は、その方が所有している農地の中で農業委員会に許可を得ずに無断転用してしまった農地があったためです。それを元の農地に戻さないと許可が下りないというのです。結局、農地に戻すには多額の資金がかかるため、このお話はなくなりました。

その後も、農地を購入できるのは、農家または農業法人のため、隣地農家の方に「お知り合いの農家で農地をお引受ける方はいませんか」と相談をすると、知り合いの農家で家庭菜園の土地もまとめて買ってもよいという方を紹介されました。売却金額も100万円を超え、「タダでもいいから処分したい」と考えていた売主さんにとってはこの上なく良い条件となりました。

農地の売却のポイントは、「農地の売却は農家に聞け」ということです。今回の売却物件は、市街化調整区域にある農地。市街化調整区域の農地は、農地法という厳しい法律の許可が必要なため、売却がとても大変です。理由は、前に指摘した通り購入できるのは、農家の方か農業法人しかいないからです。また、今回のように購入先になんらかの問題があると、売却許可が下りないということもあります。そういった農地を数多く手がけた経験からいえるのは、購入できる方が農家の方か農業法人しかいないのなら、そのネットワークを上手に使うということです。

今回のように隣地農家の方が購入できない場合でも、その方から他の農家の方をご紹介いただくことは可能です。そして、そうしたきっかけをつかむことが突破口になります。また、都市計画区域外や未線引き区域の農地を将来、建物建築用に取得されている場合は、建物を新築しないと今回のように先々固定資産税が宅地並み課税となる可能性があることを心得てください。

「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回   どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回   「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回   狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回   車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回   売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回   共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回   「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回   共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回   別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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