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BOOK Review――この1冊 『名画で学ぶ 経済の世界史』(1/2ページ)

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『名画で学ぶ 経済の世界史』 田中靖浩 著/マガジンハウス刊 1600円+税

何かとせわしない日常のなかでも、たまには日ごろの重荷を肩から降ろして、ふっと息を抜く時間をつくりたいもの。日々、時間に追われ、人間関係で気を遣う現代人にとっては、ぼーっと絵画を眺めたり、静かな音楽に耳を澄ましたりして芸術に触れ、心に栄養を与えることも必要だ。

とはいえ、専門的な知識がないと、なんとなく敷居が高いようにも思えてしまう、芸術の世界。特に「名画」と呼ばれるものは、素養がないと、ちょっとだけとっつきにくかったりもする。

その絵が描かれた時代背景や著者の思想、発表当時の画壇の評価、そして今日的な評価は――など、ウンチクをを知らないと、「鑑賞」なんてできないのでは……。そんな思いから、なんとなく絵画を敬遠している人は多いのではないだろうか。

そんな思いを持ったことのある人、または、そういう気持ちがわかる人、あるいは、「芸術なんて高尚すぎて、私にはカンケーない」と、ハナから決めてかかっている人には、是非、本書を手に取ってみてほしい。読めばきっと、「高尚」だの「難しい」だのといった絵画への印象が、ガラリと変わってしまうはずだ。

本書には難しい知識は一切必要なし。「それを知っていると、その絵画の楽しみ方がわかる」というポイントを、テンポよく、時に軽いジョークも織り交ぜつつ紹介してくれるから、気負わず読めるのである。

「へぇ~」「そうなんだ~」と思いながら読み進めるうち、ゴシックからルネサンスへと移り変わっていったイタリアの宗教画の歴史や、カトリックVSプロテスタントの宗教戦争の末に生まれたオランダで、教会ではなく富裕層をパトロンとする画家たちが活躍したことにより、宗教画以外の絵画のジャンルが開拓されたこと……などが、各国の社会経済的状況と一緒に、いつの間にかすっきりと頭に入ってしまう。

経済史という軸を用いて、絵画の歴史をたどるという視点も新鮮だ。

かつて、教会や貴族など、一部の特権階級の「私有財」であった絵画は、ナポレオンがルーブル美術館をつくり、そこで国の至宝たる絵画を一般公開し始めた頃から、「公共財」としての性格をもちはじめる。また、往時、絵画は教会などが「所有」する財産だったが、19世紀にイギリスで産業革命がおこった頃から、資金調達のための投機商品、つまり「取引財」の性格を帯び始める。これが、今日まで続く「絵画マーケット」の始まり、というわけだ。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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