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BOOK Review――この1冊 『熱源』 川越宗一/著(2/2ページ)

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アイヌであれ、日本人であれ、ロシア帝国の囚人として樺太へ収容されたポーランド人であれ、この物語に登場する人物は、みな「文明とは何か」「故郷とは何か」という問いに対峙している。その問いは、「自分はどう生きるのか」という葛藤や焦燥となり、やがて「こう生きたい」という祈りのような希望につながる。希望が叶えられたと読むか、潰えたと読むかは読者それぞれにゆだねられている。文明は衝突するしかないのだろうか。そうだとして、そのあとに残るのは何か。

著者は作品を通じ、人がつくりだした争いに決着をつけられるのは人なのだという思いを、登場人物たちの言葉を借りながら、何度も表明する。生きることの可能性に懸けるひたむきさは、そのまま『熱源』に登場する、激動の時代を生きた人物たちの横顔に重なる。人を生へと向かわせ、突き動かすものは人の熱である。熱は、時代をこえて人から人へと伝えることができる。物語のメッセージは実直で飾り気がなく、まっすぐだ。だからこそ、清々しく胸を打たれる。

著者の川越宗一は、2018年に松本清張賞を受賞した『天地に燦たり』でデビュー。『熱源』は2作目にあたり、作品そのものが放つ熱気や、史実を基にした壮大な物語をエンターテイメント小説にまとめ上げた力量が評価され、直木賞を受賞した。授賞式で、異例ともいえる快挙に「ドッキリではないかと思っている」と語った著者は、元バンドマンという経歴の持ち主。文壇に登場したニュースターの次回作にも、大いに期待したい。

 
『熱源』 川越宗一/著
文藝春秋刊
2035円(税込)

 

 
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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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