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困ったときの不動産頼み

文化財的建築も取り壊して「益出し」に躍起 郵政の不動産事業が大爆走中(2/2ページ)

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どこもかしこも不動産頼みの経営

かんぽ問題について、新聞・テレビなどの大手メディアは再三にわたって報じているが、文化的に価値のある昔の郵便局舎の取り壊しについては報じることはなく、批判することもない。

郵政事業は民営化されたものの、郵便事業は赤字基調に近く、ゆうちょの銀行業務もあまり儲からない。そこを支えるのがかんぽ生命、いやこれからは不動産だという苦しいときの「不動産頼みの経営体質」は、大手メディアもビジネスモデルが同様ということもあって、文化財の視点から細々と批判できるのが精一杯というわけだ。

加えて、かんぽ問題後に日本郵便やかんぽ生命、ゆうちょ銀行の持ち株会社の日本郵政の社長に就任した増田寛也氏も「よい土地がいっぱいある。そこでの展開をもっと進めたい」と、不動産頼みの経営にのめり込む。

これまで郵政が野村不動産HDを買収する話が取り沙汰されたりもしたが、両者の給与格差の問題などでとん挫。そこで今は三菱地所や三井不動産、竹中工務店などと親密な関係にあり、今後はヒューリックと連携強化も打ち出している。

実際、東京都心に郵政系の大型ビル建設が次々と進む見込みだ。22年に完成予定の「汐留プロジェクト」(港区東新橋)は13階建てのホテルになりそうだ。

そして、23年の完成を目指すのが「蔵前一丁目開発事業」(台東区蔵前)。23階建てでオフィス棟、住宅棟、物流施設棟からなるハイブリッドなビルになる。このオフィス棟は蔵前橋通りに面し、ファサードがガラス張り。住宅からは隅田川花火大会や東京スカイツリーを眺められる。ちなみにオフィス棟にはライオンの本社が入る予定だ。


蔵前一丁目開発事業 出典/日本郵政不動産

さらに五反田の「ゆうぽうと」(品川区西五反田)も複合施設に建て替え中だ。高層階は星野リゾートが入り、20階建ての3階~12階はオフィスとなる。


五反田物件完成予想図 出典/日本郵政不動産

また、ツインタワーの大手町プレイス(千代田区大手町2丁目)は、1つは敷地西側の逓信総合博物館があった跡地に、もう1つは敷地東側の東京国際郵便局ビル・関東郵政局の跡地にある。まさに“ツインポストタワー”だ。

財務省は21年12月8日、この大手町プレイスの政府保有分について、21年度内に売却の手続きを始めると発表。その売却額は3000億円規模になる見通しだ。国はイーストタワーのオフィス部分等を持っている。国にとっても郵政系資産はおいしいのである。

京都、大阪、福岡…広がる郵政の複合ビル

この動きは全国にも展開中だ。京都駅前では、日本郵便がJR系列会社と共同で京都中央郵便局と隣接するJR系駐車場を再開発する。もちろん、計画内容はオフィスとホテル、商業床が入るという高層複合ビルで、29年度の開業を予定している。

新しいビルは地上14階、高さは京都駅ビルとほぼ同じ60メートルとなりそうだ。その半分以上をオフィスとして整備し、上層階はホテルを誘致するが、高さ問題が地元で議論の分かれるところになっている。

大阪も24年完成の「梅田3丁目計画(仮称)」(大阪市北区梅田)があり、大阪駅前での一等地はJR西日本も再開発の地権者になっている。計画の内容は、40階建てのビルにこちらもオフィスや商業床、ホテル、劇場が入る大型複合ビルになるというもの。敷地面積は約1.3万平方メートル、延床面積は約22.7万平方メートルと大きい。梅田エリアで最後まで決まらなかった大型の再開発がこれで動き出す。大阪中央郵便局として使われた建物は大半が取り壊されたが、近代建築として評価が高かったことから、保存運動が起こった東京駅前の東京中央郵便局舎の取り壊し(再開発)の「先例に習い」、一部を複合ビルに取り込むだけにした。


梅田3丁目計画(仮称) 出典/JR西日本

跡地の再開発事業は当初、12年に完了する予定だったが、リーマン・ショック後にオフィス需要が不透明となり、10年に凍結され、満を持しての開発が動き出したというわけである。

さらに西に目を転じると、広島駅南口の広島東郵便局の敷地に、広島駅南口計画としてビルを建設する。こちらの計画は広島東郵便局を移転・解体した跡地に20階建て延床面積4.5万平方メートルのビルを建設。22年秋頃に完成させる予定だ。


大型再開発が進む広島駅前 郵政のオフィスビルが需給のカギを握る 写真/内外不動産価値研究会+Kanausha Picks


広島で開発中のビルの完成予想図 出典/日本郵便

郵政は「KITTE」ブランドとして東京駅前や博多駅前(JRJP博多ビル)で商業施設を展開している。名古屋駅ビルで展開している商業施設もKITTEブランドだ。この「KITTE」というネーミングは「切手」と「来て」の意味が込められているというが、ほとんどダジャレのレベル。それはともかく、今後も郵政と経営体力のあるJRグループとの共同事業も進みそうで、「民間デベロッパーにとっては旧官業の2社の不動産事業は手ごわい存在。すでにある百貨店や量販店、ショッピングセンターには大きな脅威となっている」(元大手デベ)という。

オフィスや店舗の「駅上化」「局上化」は止まりそうにない。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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