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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

不動産情報革命の兆しか!? 不動産流通の在り方を根こそぎひっくり返すときがやってきた

南村 忠敬南村 忠敬

2022/02/18

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イメージ/©︎solarseven・123RF

拙者の自宅は兵庫県神戸市の西北エリア。事業所は市内の東に位置する『六甲道』界隈で、通勤は殆ど車を使う。朝のラッシュ時には小一時間の完全プライベートな空間に身を委ねることができ、これがとても重要で、今日一日の段取りを復習したり、昨日の出来事に改めて憤慨遣るかたない思いを冷ましたり、時にはBluetoothでお気に入りのアルバムを流したりと、朝からよほどの約束が無い限りは渋滞にもイライラせずに、そこそこ快適にドライブを楽しんでいる。

普段は下道を走るが、打ち合わせの現場が大阪にもあって、今は週に一二度のペースで阪神高速道路を利用する。阪神高速は大阪市、神戸市とその周辺の地域に路線網を有する総延長294.7kmの自動車専用道路で、道路法上の一般国道・大阪府道・兵庫県道、または大阪市・神戸市の市道の混合路だ。東名高速や名神、中国縦貫道など、高速自動車国道法の「高速自動車国道(所謂高速道路)」とは別物で、都市高速(有料道路の類型)という名称で呼ばれることもある。

昨年から、関西の大動脈である中国縦貫道のリニューアル工事が始まっており、吹田JCから宝塚ICまでの約17km、足掛け4年に亘り段階的に実施されていて、今年の1月18日からは吹田JCから中国池田ICまでが終日通行止めだ。その影響で阪神高速の渋滞が予想されていたから、いつもより30分以上早く自宅を出るようにしている。

阪神高速の西端、「月見山IC」から東端の「守口国道1号」出口に至る、片道約60kmを、この季節、未だ陽が昇らない時間帯の冷たい空気の中をひたすら走れば、甲子園球場を右前に捉えた辺りで、東の低く瑠璃色の空の地平から、太陽神アポローンによって真っ直ぐに射られた金色の無数の矢が、一斉にフロントガラスめがけて飛び込んでくる。サングラスなど無用。顔から首を紅潮させるほどに春陽を受けて、2車線から3車線、対抗レーンの立体交差をくぐれば、眼前に大阪の空が広がる。そして少しだけ、右足に力を意識する。

我が国不動産業界の物件情報を集約するデータベース・レインズシステムの通信が一番混み合う時期と言えば、年末年始のシステムメンテナンス明けの初日。特にサーバーなどの入れ替えを伴うリプレースと重なったり、新システムの稼働を年末年始に併せてデータ移行などを行ったりしたときは、利用者のアクセスが極端に集中する初日、システムの安定稼働を確保するための対策をしっかり立てておかなければならない。

高速道路の車線例は、データ通信の回線帯域と速度の説明に打ってつけだ。

阪神高速は、月見山から尼崎市の武庫川入り口まで、全て片側2車線で、その先からが3車線。
そこから大阪市に入って淀川橋梁を超えると2車線に減少する。早朝なら通行量が少ないのでスムーズだが、通勤時間帯ともなると神戸線区間は一気に渋滞する。

インターネット回線もそれと同様で、回線帯域は車線数で置き換えられるから、50Mbpsよりも200Mbpsの帯域は処理する速度が4倍。だが、道路と同じで、整備拡張するのには金が掛かる。従って、一時的なMAX通行量(アクセス数)と平時との平均値のせめぎあいで、コストの掛かる回線帯域を決定しているのだ。

だから、どうしても年に1度のその日、想定はしているが、利用者のアクセスが一時に集中すると大渋滞を引き起こしてしまう。

レインズが変わった…4機構統合システムのスタート

1月6日。昨年暮れまで、全国4つのブロックに分けられている国土交通省指定の不動産流通機構が運営していた3つのコンピュータシステム(レインズシステムは東日本と中部の流通機構が共同利用、近畿、西日本は独自システムで運営)を、東日本・中部システムの全面リニューアルに伴い、近畿と西日本流通機構が共同利用の協定を締結し、4機構共同システムとして運用が開始された。

現代社会において、同じ目的を持つコンピュータシステムを併合し、個別に掛かっていたさまざまなコストを一本化して運用効率を上げる手法は随分以前から各所で採用されていたが、こと不動産業界では、独立した4機構それぞれの組織的事情や、不動産の地域性による微妙な項目の違いなどを理由に一本化は見送られてきた。

レインズシステムの歴史は、媒介契約制度と物件情報のデータベース化の歴史であり、旧建設省時代の昭和55年、宅建業法改正(媒介契約制度導入)を契機に同57年、認定流通機構の発足以降、行政の指導によって不動産流通の近代化の推進を図ってきた。平成2年には、関東圏を中心として業団体独自のレインズシステム(東京レインズや霞が関レインズ)の事業開始や統合などを経て、全国37の指定流通機構が生まれ、電話回線を使用したVANシステムを導入して物件情報の登録配信を行っていた。その後、建設大臣の指定を受けた流通機構は4つの地域に集約され、平成9年からはVANシステムを廃止し、各機構はインターネットプロトコルに移行したレインズIP型の運用を開始。それから23年の時を経て、ようやく不動産業界の物件情報データベースが一つに集約されたのである。

次ページ ▶︎ | 物件情報の利用範囲が格段に広がるデータベースの一本化

実はこのデータベース一本化は、これまで統一的なフォーマットが整備されなかった物件情報の利用範囲が格段に広がることを意味する、とても重要なポイントのである。


REINS(レインズ)のホームページ。不動産業界の物件情報データベースが一つに集約された

規制改革実施計画(令和2年7月閣議決定)とは何だ!?

この計画書の冒頭には、「我が国が豊かで活力ある国で在り続けるために、(中略)時代に適合した規制の在り方を模索し、実現していかなければならない」と書かれている。近代民主主義国家では、国民の安全と経済の発展に資するために、国の行政機関が「自由」に対する一定の制限を設け、国家の治安と社会秩序を維持しようとする。その結果、さまざまなルールを制定して画一的運用を図り、強制力を要するものには法令を当てはめていく。

並行して成長を続ける人間社会においては、新しい価値観や技術革新による国民生活の変化が常に渦巻いているから、その時々には有益であった規制やルールも時の経過とともに陳腐化し、放置されれば社会全体に有害なデブリと化して成長を阻害する要因となり得る。

つまり、政府は経済のグローバル化、経済・社会のデジタル化がもたらすイノベーションに即応し、この国が世界から取り残されないようするために、遅ればせながら現行の規制・制度を見直し、成長を加速させ得る規制・制度に変革して行こうというのだ。その指針となるべき計画案を作成するため、令和元年10月に内閣総理大臣が常設の諮問機関として設置したのが「規制改革推進会議」で、そこから答申されたものがこの「規制改革実施計画」で、各産業分野別に重点実施項目を列挙し、行政主導の下で速やか且つ着実に実施していくとしている。

ちょっとお堅い説明になってしまったが、要は各産業分野でのDX推進とイノベーション促す目的で、所管行政庁が旗を振り、業界のケツをひっぱたいて、「不要な規制・制度を見直してやるからデジタル時代を乗り切ろう!!」と煽っているのだ。

不動産業界に対する3つの重点項目

その1~不動産取引の相場情報を整備する~

平成19年からレインズの取引成約情報を利用して、消費者向けに情報提供を行ってきたシステム(レインズ マーケット インフォメーション:略称RMI)というものがある。簡単に言えば、一定エリアの取引価格データから、近隣相場が分かるというサービスだ。不動産価格というのは一般に「一物三価」と言われ、公示価、路線価、固定資産税評価が国の制度として公開されている。しかし、売買取引において契約に至る価格には、物件の個別属性と周辺環境、時の経済情勢に加えて、当事者の個別事情が影響大だから、成約価格というのは国も重要視している。

そのシステムを見直し、社会的ニーズに呼応した仕組みに作り替えろ!というものだ。しかし、この取引事例というのは実際に契約した特定の不動産とその金額だから、個人情報として取り扱われている。契約当事者も、見ず知らずの他人に財布の中身をさらけ出すようなことは勘弁してくれ!と、情報開示には消極的な割合は過半数を超えているのが実情だ(国交省・土地問題に関する国民の意識調査R2版)。

その2~レインズの登録情報を充実させる~

レインズシステムは、今や我が国最大規模の不動産情報データベースに育っている。本邦一円、今売り出し中の在庫不動産や、成約事例といった過去の取引情報、賃貸物件なども網羅する登録検索システムだが、このレインズは一般公開されておらず、不動産屋だけが覗くことを許された、正に都市伝説的なデータベースなのである。従って、“プロが使う”というのが目的のため、消費者の皆さんが日頃物件探しに活用している物件情報ポータルサイト(SUUMO、HOME’S、athomeなど)に掲載されている物件情報項目よりも、格段に少ない項目で登録が可能(物件種別によって若干異なるが、平均7~8項目が必須)となっている。業者間では長年に亘り、それはそれ、必要な情報は改めて確認するという、所謂“二度手間”に慣れているから、仕事の上ではそれほど問題視していないのだが、御上はこれを不服だと言う。

つまり、少ない項目の歯抜け情報じゃあ、消費者に紹介するためには再調査の手間が掛かるでしょ? それって効率悪いでしょ!? 必須項目増やして利便性が落ちることにはならないでしょう~、と。一理有る。米国での類似システム(MLS≒マルチ リスティング サービス)なんかは日本と逆で、消費者には少ない項目を開示し、詳細はエージェントに確認させる流れを作っている(現在ではインターネットの普及でそれも崩れてきているらしいが)。プロこそ詳細情報を把握していて当たり前であり、合理主義的なビジネス優先の考え方だ。しかし、日本では既に民間ポータルサイトが充足しているから、今更MLS流のビジネスシーンに移行するのは“時すでに遅し”の感が充満している。

その3~不動産にIDを付ける~

不動産取引の経験がおありなら、契約前に重要事項の説明と、契約書類の説明を受けたことがあるだろう。調査内容は膨大で、物件の属性から法令制限、法務局や市役所情報、近隣周辺情報や取引に係る約束事、民法だ、宅建業法だ、とまあ、延々と専門用語の洪水で、確かに一生に何度も無い買い物だからと我慢々。仲介手数料ってどうしてこんなに高いの?って不満をお持ちのお客さんでも、この重要事項説明をまともに受けると、少しは不動産屋の苦労も分かっていただけるかもしれない。

これら調査の手間を省いて生産性を上げませんか? 不動産にID付けて、それに多くの情報を紐づければ、IDで一挙解決!なんて夢のような話を持ち掛けてくるのは所管の国交省。ちょっと考えてみても、その紐づける情報って、そうは簡単に整備できない。いろんな役所が絡み合って、それぞれの地域でデータの種類もフォーマットもバラバラ、地方庁によっては出す、出さないというところも統制が取れないかもしれない。

次ページ ▶︎ | 進むか? 不動産情報の非対称性解消とDX 

国は情報開示できるものはドンドンしていきますので、と言うけれど。“Base registry”という「基礎的情報基盤システム」なるものを構築するのだそう。期待は膨らむけれど、本気で取り組まないと“絵に描いた餅”になりそうで怖い。


国交省が推進する基礎的情報基盤システムは絵に描いた餅?/©︎tktktk・123RF

実は裏で繋がっている規制改革の目論見

3つの重点項目を見れば、それぞれ個別に“なるほど”と思わせてくれる内容だが、よくよく考えたらある共通点に気づかされる。それは、「詳細な情報」の取得を必須要件とする付加価値の創造。言い換えれば、閉鎖性の強い不動産業界の垣根を取り払って、IT企業などによる新しいビジネスモデルの参入を推進し、情報の非対称性解消や不動産DXの導入促進が実現すれば、日本の不動産市場の透明性が増すので投資が行い易くなり、流通の活性化をもたらすことが国民の利益に繋がる、ということではないか。

デジタル庁創設の目的の一つには、手続きのデジタル化や取引プロセスそのもののデジタル化が含まれ、我が業界に対しては不動産取引情報の開示と一元化が必須なのだろう。

すなわち、不動産業者専用のレインズDB上で情報項目を追加整理し、個々の物件に不動産IDを付与することで、物件ごとに各項目と外部情報を紐づけることが可能となる。それは、不動産情報の利用シーンが各段に増加することを意味し、民間IT企業やテック企業が積極的に利用することで不動産イノベーションが進み、新しいビジネスも誕生する、という筋書きが見えてくる。

さて、この革命的なレインズを含めた業界の変革に、巷の不動産屋さんたちは付いて来られるだろうか。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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