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不動産投資は「立地利用価値」の分配か――21年のビッグワード 新しい資本主義の「分配」を考察する

朝倉 継道朝倉 継道

2021/12/08

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イメージ/©︎ilixe48・123RF

政策的「分配」には2種類ある

この秋に行われた第49回衆議院選挙では「分配」の2文字が大いに話題となった。与野党ともにこれを重要な政策としてアピールし、争点にもしたからだ。メディアも盛んにこれを採り上げた。

政策としての「分配」は大きく2つに分けられる。ひとつは「所得の分配」だ。主には給与所得者においての給与を増やすための方策を指す。企業が上げた利益に対する、資本・経営・労働・企業自身(再投資分)の4者間による取り分調整への国からの関与といっていい。

もうひとつは「所得の再分配」となる。国民の間に生じる所得の差を事後追随的に均し、格差が是正される仕組みを講じることをいう。

例えば、今回の選挙で自由民主党が掲げた「賃上げした企業への税制支援」は、まさに前者に当たっている。一方、複数の党が訴えた「低所得世帯等への現金給付」は、もっともあからさまなかたちでの後者の例となるわけだ。

分配はお金だけでなされるものか?

ところで、いま述べた政策としての分配で対象となる分配物は、要はお金だ。企業と国民、または国民相互におけるお金の配分について、家計や国の経済成長等を考慮しながら、さまざま実情を汲み取りつつ調整していきましょうというものになる。

一方、お金以外でも、分配はさまざまなかたちで実は成立しうる。そのなかには、長く経済社会を支え続けている重要なシステムが存在したり、ITの仕組みに乗って目下大いに成長中の身近なものもあったりする。そのいくつかをこの記事では拾い上げてみよう。

お金のみならず、お金以外のさまざまな価値の分配についても、その仕組みや課題をひとつひとつ丁寧に考えていくことは、われわれの今後の社会において、重要なテーマとなっていくはずだからだ。

不動産投資は「立地利用価値」の分配

不動産投資の多くは、過去も現在も変わりなく立地の利用価値を分配する行為にあたる。

単純な例として、駅のすぐそばに土地を持ち、そこで貸事務所・貸店舗付きの賃貸マンションを経営しているようなオーナーは、まさにその土地での立地利用価値をあまねく人々に分配している存在だ。

このことは、世の中にありふれていながら実は非常に重要な行為となる。なぜならば、その土地にあるのが畑や田んぼではなく賃貸物件であることによって、「駅近」というこの土地の利用価値は万人に開放されていることになる。

対して、オーナーはこの行為により入居者から賃料を得るが、代わりに土地をいつでも自分の好きに利用できる「物権」は、法令上も実質上も大きく損なわれている。

すなわち、駅近物件に限らないが、不動産投資に諸々の税制上のインセンティブが生じることは、実はこうしたマイナスとは歯車の嚙み合う関係にあるといっていい。過去よりわが国では比較的上手く回っている緻密な“分配”制度といえるだろう。

よって、いま気になるのは、いわゆる駅前タワーマンションとなる。駅にもよるが、駅前・駅近という高度な立地利用価値を頑強な区分所有権の「城」にし、固めてしまうのは、おそらく分配面での悪手といっていい。駅前タワーマンション(あるいは大型マンション)は、経時による分配性、すなわち流動面に優れた賃貸である方が、社会的資本として本来望ましい筈だ。

フリマアプリは消費のダメージと満足を分配するツール?

フリマアプリは、消費による「ダメージ」と「満足」の両方を上手に人々に分配する優れた機能であるため、広く受け容れられている。

例えば、3万円のコートを店で買った人が、フリマアプリを使い、これを2万円で売ったとしよう。さらに、これを買った人が同じくフリマアプリを用い1万円で売ったとしよう。そのコートは3人が1万円ずつの対価をもって消費したかたちとなる。消費によるダメージの分散、逆にいえば収益の分配だ。

では一方で、このコートを2万円で買った2番目の買い手や、1万円で買った3番目の買い手が、このコートに対して2万円なり1万円分以下の“使用満足度”しか得られなかったかといえば、大抵そうではないだろう。なので、3人それぞれの満足度を値付けすると、それらはおそらく2万円もしくは1万円を各々超えており、面白いことにこのコートが生み出した価値の総和は当初の値段である3万円を大きく上回る。

すなわち、これがフリマアプリやオークションサイトが生み出す興味深い創造価値のひとつだ。よって、これらを運営する企業は、この「価値の総和>元価格」の成立がつねに実現・維持されるよう、全力を挙げて事業運営すべきだろう。

なおかつ、そのことは、アプリ・サイト運営会社における利潤と成長にもちろんつながることであり、中古品流通が経済に与えるであろう基礎的なダメージである生産向け設備投資の減少に対する多少のカバーにも、当然なりうることとなる。

劇的に変化していく「仕事の分配」

資本の側から労働者としての個人の側へ、仕事は長い間「垂直分配」されてきた。ところが、IT化が進んでいく世界が生み出す新しい労働社会においては、そこが突き崩されてきている。このことはすさまじくエキサイティングだ。

すなわち、気づいている人も多いと思うが、現在、仕事は能力のある個人から企業へと分配されるケースが増えている。これは、主にはマネジメントやスポンサードといったかたちで、過去より一部には見られていたものだ。

しかしながら、IT化していく社会の中では、これが一部のことにはとどまらず、あらゆる分野で個人の能力が“タレント”化しやすくなっている。例えば、カリスマユーチューバーなどはそのうちの目立つ代表だ。ファンや支持者という市場は彼らが個人で握っており、企業はそこにチャンスを求めてぶらさがる。仕事の分配にあずかるかたちとなるわけだ。

また、似たことは、いかにも組織立った企業の中でも実はかなりの割合で起きているはずだ。多くの従業員は昔ながらに仕事を会社から分配されているが、その企業が請け負う仕事を実質として創造し、分配しているタレントが、いまはさまざまな企業に生まれている。

そのため、働く者の間でのもっとも大きな経済的ないし心理的な格差は、企業の大・中・小や、雇用の正規・非正規の別以上に、そうした分配者と被分配者との間に、今後は生じやすくなってくるはずだ。

ともあれ、資本よりも上位に立つ個人が次々生まれるという以上の事実にこそ、社会は多角的な面から注視をしていかなければならなくなるだろう。

学校にはやっぱり行かなくていい?

人々が教育される機会の公平分配が、産業革命以降の社会的ニーズ=規格化された人材の大量生産に合致するかたちで広がったという意見をたまに聞くが、それには大いに賛成したい。

そのうえで、現在、興味深いのは「教育を行う機会」の方の分配が広がっていることだ。これも世の中のIT化が生み出している。

すなわち、学校といえば、仕組みを表す単語であるとともに、それが校舎という建物を指しても言われるように、教育には屋根と壁に囲まれた施設が従来必要だった。ところが、インターネット社会の始まりとともにその点が崩れ去ってしまっている。

つまり、免許や許認可のことはとりあえず措くとして、実質上、子どもへの教育、大人への教育併せ、教育にはいまは誰もが参入できる。そのなかには、いわゆる官製の「教師」を超えるソリューションを提供できる人材が多数にわたって存在することも、当然期待しうることといえるだろう。

なので、それを逆から見据えたうえでの「学校なんかに行かなくてもいい」との主張は、何やら生意気だが、理屈としてはあたりまえに的を射るものだ。

が、反面、子どもの教育における家庭の責任はこれによって非常に重くなった。理由は、近代以前さながらの家庭内教育含め、教育の選択肢が多様となる以上、子どもにどんな学びの機会を与えるか、親のナビゲーションによる結果の差も、必然的に多様化せざるをえないからにほかならない。

分配を考えることはその時々の社会の幸福のカギを考えること

分配について、思考の範囲を広げながら、浮かんでくる事例と課題をいくつか記してみた。だが、実際のところ話は尽きない。例えば、リスクと安心、コストと安全の同時分配制度である保険や共済、さらには証券化といったシステムと考え方は、今後いまに増して大きな広がりと飛躍が期待されるものだ。

分配はあらゆる動物のなかでの人間の専売特許ではないが、あらゆる動物のなかから人間を際立たせているきわめて重要な要素のひとつだ。おそらくはこれがあるため我々は文明を持てたといってもいい。

なので、分配を考えることは、つまりは人間社会の幸福のカギについて考えることとなる。

その意味で、冒頭にもふれた今回の衆議院選挙は大変収穫の多い選挙だったといえるだろう。それはとりもなおさず「分配」の語を世の中に大きく広めた功績による。 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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