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小説に学ぶ相続争い『女系家族』④――相続をひっかきまわす迷惑な人々の介入をどう防ぐか(2/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/10/21

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藤代さんはこの芳三郎さんに、相続した貸家や土地の評価の協力をお願いしたり、共同相続財産の山に一緒に入って、山守の評価を聞いたりするのですが、その間に梅村さんとちょっといい仲になったりもします。

そして梅村さんは、山守に自分たちの関係を次のように説明したほうがいいと藤代さんに言っています。

<私のことは踊りを習うている師匠といわずに、将来、あんさんと結婚するかも解らん間柄の男という風に匂わしておくことだす>

山守に怪しまれないための口実かもしれませんが、ほかにも、藤代さんに好意を持ち、結婚まで考えているかのようなセリフをいくつか言っています。

とはいえ、後々になってその内実を次のように白状します。

<……その相続額と、その額をたたき出すのに知恵を搾った私の労力とそれに消費した時間とを睨みあわせた金額を、梅村流の会に寄付して戴きたいというのでおます、もし、それもおいやというご意向なら、ご相続分のことについてのご相談は、今日限りにして貰いとうおます>

頼りにしていた梅村さんにこんなふうに言われた藤代さんは、心細さと不安を覚えて、まんまと芳三郎さんの言いなりになっていくわけです。

結局、芳三郎さんは“カネ目当て”の迷惑な人でしかなかったのです。

次に、養子婿をとって矢島商店を継いでいる次女の千寿さんです。

千寿さんの周囲にいるのは、夫の良吉さんです。良吉さんは迷惑な人というわけではなく、跡取りになった以上、自分たちが正しく財産を相続することを考えているといったほうがいいでしょう。

姉の藤代さんからは凡庸に思われている良吉さんですが、大番頭の宇市さんが、嘉蔵さんの財産や矢島商店の売上をくすねているのではないかと疑っています。

千寿さんに激しい口調で次のようなことを言っています。

<あんたが相続をすまし、わいがあんたの配偶者として、矢島商店の五代目店主になって営業権を継いだら、その時こそ、ぬきさしならん証拠を掴んで、わてを養子扱いにして嘗めてかかったあいつを、抜打ちに徹頭徹尾、調べ上げて仕返しするつもりだすさかい……>

小説を読む限り、良吉さんは、婿養子としての謙虚な姿勢を持ち、冷静なタイプのように見受けられます。しかし、心の中には、婿養子として虐げられてきた悔しく激しい思いがあるようです。

そして、矢島商店の利益の半分を、3人娘で等分しなければならないという遺言について、新たな作戦を考えたり、千寿とともに抵抗する姿を見せたりします。

最後に、古いしきたりに縛られない三女の雛子さんです。まだ結婚していない天真爛漫な雛子さんには、叔母の芳子さんが付きまといます。

嘉蔵さんの亡くなった妻であり、矢島家の総領娘であった松子さんの妹が芳子さんです。

嘉蔵さんは、なるべく戦後の新しい民法にのっとった財産分割をしているため、総領娘の藤代さんに多くの財産を遺すようなことはしていません。しかし、芳子さんたちが親から財産を相続した戦前は、長子相続が決まっており、姉の松子さんと芳子さんの相続には大きな隔たりがありました。その法律に対する悔しい思いをこう口にしています。

そんな殺生な法律でおますやろか、矢島本家の二人姉妹に生まれながら、たった一年、生まれてくるのが遅れただけで、矢島家の冷飯ぐいさせられているわてが……

しかも、芳子さんの分家の矢島商店は、どうも経営状況が芳しくありません。

そこで、考えたことが次の通りです。

<あの娘をうちの養女にして、あの娘を通して、わての取られへんかった矢島家の財産を取り、この店を持ち直すのだす>

「あの娘」とは、もちろん雛子さんです。

つまり、雛子さんの身の周りを気遣ってあげたり、お見合いをすすめてみたりするのですが、その心の内は、総領娘でないがゆえに不公平な相続をした過去を挽回するために、雛子さんの相続財産を手に入れようというものなのです。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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