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増加著しい虐待の通報件数 賃貸住宅オーナーも入居者も通報は国民の義務

朝倉 継道朝倉 継道

2021/10/06

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イメージ/©︎bunnynight・123RF

大阪・摂津市の集合住宅で3歳の男の子が虐待死

耳を塞ぎたくなるような事件が、大阪府の摂津市で起きた。

報道されている内容が正しければ、わずか3歳の男児が、この8月31日、母親の交際相手とされる男に残虐な方法で殺された可能性がきわめて高い。23歳とされるこの男は、おそらくは男児を動けない状態にしたうえで、シャワーの熱湯をその身体に長時間浴びせ続けている。

死因は重度のヤケドにともなう熱傷性ショックだという。

シャワーは75度にまで温度が上げられる仕様で、殺される直前と思われる時間には、男児の激しい叫び声が、近隣住人の耳にまで届いている。まるで古い時代の拷問話や処刑話を聞かされるような、恐ろしい惨劇といっていい。

現場は「マンション」と、報道では伝えられている。そこで、この物件を特定しデータを拾うと、建物はRC5階建、築年は1987年となっている。区分所有物件として売買されてきた形跡もありつつ、多くの住戸で、家賃の設定も行われている。当該物件は、実態として賃貸集合住宅の環境にあるように思われる。

なお、今回の容疑者である男は、昨年の秋頃から男児の母親と交際を始め、その後、今年の5月になって、親子の住む部屋に転がり込んだらしい。殺された男の子にとっては、あまりにつらい同居の日々が、以降始まったものと推測されている。

異常を感じたら躊躇なく通報を

私は以前から、機会あるごとに、賃貸住宅オーナーや賃貸住宅に住む人は、児童虐待には特に敏感であってほしい旨を訴えている。

統計は出ていないと思われるが、数ある事例を見てもうっすらと分かるように、賃貸マンションや賃貸アパートは、おそらく児童虐待の現場になりやすい。反面、これらにあっては、構造上虐待の事実が周囲に漏れやすい。

オーナーや入居者は、少しでも異常に気付いた場合は、逡巡せず、躊躇なく、関係機関へ通報するべきだ。もっとも、最近は、実際に躊躇せず通報する人が増えたため、逆にストレスを抱える親が少なくないとも聞く。

子どもが癇癪を起こし、激しく泣くなどしたことで、近隣の住人がこれを通報、警察官などが駆け付け、そのことでショックを受ける親御さんも多い。

しかしながら、そうした親御さんには気の毒なことだが、その問題は、児童虐待から子どもを救うべき社会的課題とは別に切り分けた方がいい。

「警察官や児童相談所の職員が真剣な面持ちで家に現れた。ご近所の手前、恥ずかしい思いをした」「子どもの身体に虐待の跡がないかを調べられた。親として失格なのではと、自分を責めた」、そんな状況はたしかにつらいものとは思うが、それも社会による見守りの一環であると解釈するのが、より賢明で前向きなことといえるだろう。

増加著しい虐待の通報件数

厚生労働省がこの8月27日に公表した「令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」によれば、ここ5年の状況は以下のようになっている(2020年度は速報値)。

見てのとおり、全体での伸びもさることながら、「相談経路が警察等」の数字はさらに増加の度合いが著しい(全体は16~20年度で約1.67倍、相談経路が警察等は約1.89倍)。

「頻繁な子どもの泣き声などを耳にし、異常を感じて即110番」といったケースが、おそらく増えていることが想像される数字といえるだろう。

体罰は法律上すでに禁止。虐待の通報も国民の義務

その「虐待を察知しての通報」だが、すでにかなり前から、法律上国民の義務になっていることをご存じだろうか。

児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)第6条1項には、

「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、(中略)市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」

と明記されている。

なお、このうち「児童虐待を受けたと思われる児童」の部分については、過去には「児童虐待を受けた児童」とされていたものが、04年に改正されている。

すなわち、以降は「虐待では?」と、周囲が主観的に感じた時点での即時通報が義務化されているというわけだ。加えて、20年4月からは、前年の児童福祉法と児童虐待防止法の改正により、親などによる子どもへの体罰そのものが、法律で禁止されることとなった。

つまり、「体罰は不要か、仕方がないことか」といった悩みは、悩むこと自体がもはや論外のこととなっている。とはいえ、さきほどの児童虐待の通報義務とともに、このことはおそらくいま時点では社会にあまり深くは浸透していないようにも感じられる。

よって、再確認しておきたい。

体罰はすでに法律上の禁止行為であり、児童虐待はそれと感じた時点で通報することが国民の義務だ。小さな尊い命を守るため、われわれはこのことを強く胸に刻んでおきたい。

なお、児童虐待の通報先に関しては、前述のとおり警察を選ぶ人も多いようだが、覚えやすい専用ダイヤルも用意されている。児童相談所の全国共通ダイヤルである「189」がそれだ。通話料は無料。匿名での通報も可能。詳しいあらましが、リンク先にて紹介されている。

ひとりでも多くの子どもを虐待から救うために、この189(いちはやく)をぜひ活用してほしい。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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