共用部分のタバコの投げ捨ては「割れ窓」と同じ? 犯罪機会論で賃貸経営を斬る(1/4ページ)
朝倉 継道
2021/09/28
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犯罪機会論はあきらめの論理?
「犯罪機会論」が、防犯のための有力な提言として語られるようになってから、かなりの年月が経つ。例えば、その重要な一展開となった「割れ窓理論」が発表されてから、来年ですでに40年にもなるといったところだ。
とはいえ、日本では一部の自治体がこれを防犯行政の柱に据えるなどの実績はありながらも、基本として、犯罪機会論はあまり一般化したようには感じられない。
その理由として、犯罪機会論においては、普段から犯罪を企図している者、要は「悪人」の社会における恒常的な存在が前提となっていることが、おそらく挙げられるだろう。
この考え方は、合理的、かつ現実的ではある。だが、ある意味希望がなく、諦観論的でもあるため、われわれの日本社会においては、軽い拒絶感を含むメンタルに阻まれている気配も感じられる。
しかしながら、一方で犯罪機会論的な考え方は、賃貸住宅を営むオーナーにとっては経営上のスタンスとして重要なものといっていい。
防犯のかなめを「人間」ではなく「場所」や「条件」に求めようとする犯罪機会論的思考は、賃貸住宅オーナーがぜひ知っておくべきよいヒントとなる。
犯罪機会論と犯罪原因論
犯罪機会論の説明をしておきたい。
犯罪機会論では、防犯のための論理の土台を個人に求めない。犯罪原因としての「人間」に着目しないことが、その特徴となっている。
どういうことかというと、犯罪の発生理由を分析するにあたって、犯罪機会論においては、犯罪者の人格や境遇は資料とされない。代わりに注目されるのは、その犯罪が起きた場所などの「条件」となる。
例えば、いたずら目的で児童を誘拐した犯人がいるとすれば、われわれの関心は、通常、その人物の生い立ちや、普段の生活、社会的地位、境遇などに向かっていく。
だが、これは下世話な感情のようでいて、おそらくそうではない。犯人と類似する存在をふたたび世の中に生み出したくない、われわれの本能的な欲求によるもののはずだ。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。