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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#20 コロナ終息までホテルは生き残ることができるか (2/3ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2021/02/16

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ポスト・コロナ時代 宿泊業界はどうなる

それではポスト・コロナ時代に宿泊業界はどうなってしまうのだろうか。まず注目しなければならないのが、19年で3188万人を超えていたインバウンド(訪日外国人客)需要がいつになったら戻ってくるのか、あるいは本当に戻ってくるのか、という問題だ。


再び外国人訪日客で賑わう日はいつになるのか/銀座4丁目交差点©︎tktktk・123RF

私は感染症の専門家ではないが、コロナ禍が1918年から20年に流行したスペイン風邪の時のようにやがては人類の手によって終息させられていくと考えている。これまで終息できなかった感染症はなく、ここは人類の叡智に期待したい。また今回のコロナ禍に対する意識が高じて、人々が移動するという選択肢を全くもたなくなるとも思えない。動物は基本的には移動しながら生きるものだからだ。

しかし、ワクチンが開発される、あるいは様々な感染症対策が早急に講じられるようになったとしても、コロナ前の水準にまでインバウンドが戻るにはおそらく2~3年はかかるのではないかと思われる。たとえ今年のかなり早い段階でワクチンが行き渡り、コロナ禍が終息の気配を見せたとしても、日本にやってくるインバウンドの大半は航空機を利用してやってくる。ところが世界の多くの航空会社は機材を売り払い、パイロットやキャビンアテンダントを解雇している。本格的な回復には一定のタイムラグをみなければならないのだ。

またマイクロツーリズムと称して、国内客による近場の旅行を促進しようという動きもある。たしかに19年における延べ宿泊者数5億9592万人泊のうち国内客は4億8027万人泊。国内旅行客の需要をもっと喚起することができれば盛り返せるというわけだ。だが、コロナ禍がやっかいなのが、インバウンドに期待できないから国内客で代替しようにも、緊急事態宣言が発せられるような状態では、相変わらず県境またぎをされることに対してさえこれを禁止、抑制しようとする自治体が多くみられ、到底需要の獲得には至らないことだ。景気の悪化により、勤労者のボーナスや給与の減少、リストラなどの話題も出始めたことも、旅行という「ハレ」の場を提供する宿泊業界には頭の痛いところだ。

財務が脆弱な企業は淘汰される可能性も

宿泊業界はしばらく我慢の時間を過ごすことになりそうだ。ただこの業界は財務状況が脆弱な企業が多いので、この間において施設の淘汰がかなり行われるのではないかと予想している。特に18年から20年にかけて都内や京都、大阪では多数の新築ホテルが立ち上がった。これらのホテルは土地代が高く、東京五輪を控えて建築費もうなぎ上りの状況下に建設されたものが多い。営業計画もインバウンド需要を過大に当て込んだものが多かったため、需要が消滅し、借入金が過多な施設では今後経営が持たなくなるところが増えると予測している。

淘汰される対象はホテルや旅館だけではない。ホステルの看板で急成長した簡易宿所や、18年に新法が制定され、設置数を伸ばしてきた民泊のような小資本の施設にとっては、2~3年という我慢の時間は死亡宣告をされたに等しい。実際に民泊件数は20年5月以降前月比で減少に転じている。

そうした意味では今回のコロナ禍は、インバウンドの急増や東京五輪の需要を当て込んで雨後の筍のように続々と新築ホテルを建設してきた宿泊業界に冷や水を浴びせる結果となりそうだ。しかし考え方を変えてみれば、今回の騒動で一部「無理筋」で進出してきた有象無象が退場し、業界として再出発するには良い機会になったともいえるのではないでだろうか。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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