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日本人は「たたきあげ」が好き?――「エリート」と「たたきあげ」生命力の違いはどこにある?(2/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/10/21

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面白みのある成功か、ない成功か

ひと昔前の小説や漫画の主人公は、「たたきあげ」タイプが多かったが、最近では、登場時からすでに高い能力を備えており、スマートに敵を倒すタイプが人気だという話を聞いたことがある。

そういえば、最近の若手は、ことあるごとに効率という言葉を使う。泥臭いことを好まず、こまめな労働を厭い、あきらめるのも早い。そして、パソコンの前に座っては、データを眺めている姿をよく目にする。これも時流かと思うが、これでは、未来はどうなるかと、年寄りとしては、少々不安になるというものである。

古い考えだろうが、私はやはり、物語のヒーローは「たたきあげ」であってほしいと思う。

効率よく、スマートに物事を対処できれば、それは最善である。しかし、長い人生、平坦な道ばかりではない。と、いうより平坦な道というものが果たしてあるのだろうか。生きていれば、必ず挫折の時がくる。企業の運営に限ったことではない。その時、整えられたレールをさしたる労苦なく走ってきた人間は、どうしても倒れやすい。さながら温室で育てられたバラのように、少しの変化で容易に枯れてしまう。

むろん、泥臭く努力したとて、物語の主人公のように、敵を倒せるかどうかはわからない。が、しかし、生物は命あるかぎり前進せねばならず、成功の先に、また人生は続くのだ。

で、あるならば、多少の困難に簡単に倒れるようでは面白くない。せいぜいジタバタして、なんだかわからないまま何事かに挑み、何かを成して死んでいくというのが正しい生き物の姿である。そして、効率やら、成果というものは、その後からついてくるものである。

常に降りかかる不測の事態に対処する方法は机上には存在せず、結局のところ、もがきながら立ち向かうのが、正しい作法なのである。ついでに個人的な意見ではあるが、スマートなエリートが華麗に成功を収めるという話は、どこか面白みに欠ける。

菅総理がたたきあげというのであれば、今後の政策に泥臭くとも面白みに富んだものを期待したい。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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