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インバウンドどころか国内客もいなくなった宿泊業界の阿鼻叫喚

牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#15 インバウンドどころか国内客もいなくなった宿泊業界の阿鼻叫喚(2/3ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2020/04/02

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高級外資系ホテル 1泊5000円で宿泊

とりわけ宿泊で大打撃を受けているのがミナミ界隈のホテルだ。道頓堀を中心にインバウンドだらけであったのが、街からその姿が消滅。実はミナミのホテルの多くは宿泊客の大半がインバウンド客。中には9割以上がインバウンドというホテルもある。もともと国内客を取り込んできていなかったのに加え、国内客もほとんど消えてしまったマーケットでは、どこを向いても顧客が見つからない状況に陥っているのだ。

宿泊需要が急増していた頃には事前に予約をせずに大阪出張すると当日は宿がなく、24時間営業のカフェで夜明かししたなどというのは「今は昔」の話。最近囁かれているのが、市内にある高級外資系ホテル。当日夜遅くにインターネットサイトでチェックすれば5000円でも予約できるという噂がビジネスマンの間でも話題になっている。

大阪は民泊特区といって比較的民泊を自由に運営できることから市内には数多くの民泊が存在する。またホステルなどの簡易宿所も多く、ビジネスホテルの需要を喰ってきたと言われるがこれらの低料金の宿泊施設も大打撃である。特にこうした業態の業者は資金力に乏しい。大阪市内のビジネスホテル業界にとっては目の上のたん瘤だったホステルやゲストハウスなどは今後、意外な形で淘汰されていくかもしれない。

東京都心部でもこれまでは宿泊単価で1泊1万円を割ることが少なかった大手チェーンのビジネスホテルが軒並み6000円から7000円台に落ち込んでいる。高級ホテルの稼働率も20%から30%に落ち込み、この数値は東日本大震災時に匹敵ないしは上回る惨状だという。

惨憺たる船出 ホテル関係者の恐怖

だが、東京の場合は別の側面での影響が深刻になってきた。7月に開催されるはずだった五輪にあわせて都内では数多くの新規ホテルが建設を急いできたが、今多くの現場で焦りの声があがっているのだ。

現在新築中のホテルで、FF&E(Furniture, Fixture & Equipment)と総称される家具備品類の納入に問題が発生している。実はホテル関係の建材、とりわけ内装材やシャンデリアなどの照明器具、トイレの洗浄便座などのセンサー類、ベッドや机などの家具は多くが中国に発注を行い、中国国内で製造がおこなわれている。

通常夏場までにホテルを開業する際に、ホテル関係者が心配するのが春節の期間中、中国国内の工場の稼働がほとんどストップするので、納品期限を厳格に管理するのが常識なのだが、今回は納期遵守以前に新型コロナウイルス騒動で従業員が工場に出勤できずに製造が行われていない、という異常事態になっている。

さすがにトイレの洗浄便座がない、ベッドや机、椅子がない状態で、ホテルは開業を迎えることはできない。あるホテル建設関係者に聞いたところでは、6月に建物が竣工する都内のあるホテルでモデルルームを制作しているのだが、中国から納入されるはずのベッドが来ないという。仕方がないのでベッドがあるものと仮定してとりあえずはデザイン調整などをしているというが、現状本当に納品されるかいまだ目途はたたないとのことだ。

先日の発表で東京五輪は来年7月までの最大1年間、開催を延期するとの発表があった。それならば五輪開催まで工事を急いでいた関係者にとって朗報といえるのだろうか。そんなわけはない。多くの新規ホテルは五輪開催を見込んですでに旅行業者から多数の予約を取っているが、これらはすべてがキャンセルだ。

新型コロナウイルスの影響が続く東京で、現在ホテルをオープンしても一定の稼働を確保することは至難の技といえるだろう。五輪が延期になったからといってホテルオープンも延期はできない。建物は竣工と同時に借入金の返済はスタートする。惨憺たる船出を余儀なくされるのがこうした新築ホテル関係者の恐怖だ。

東京五輪が延期になったからといってホテルのオープンを延期することはできない。写真は都庁/©︎123RF

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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