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映画『FAKE』公開記念 森達也監督インタビュー(前編)

天才かペテン師か?「ゴーストライター騒動」佐村河内守の素顔に迫るドキュメンタリー「FAKE」インタビュー(2/2ページ)

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この世界はそんなに単純なものではない

——メディアはそういった伝え方はしませんね。映画のなかでも、佐村河内氏の聴覚障害に関するある事実をメディアが完全に無視していたことが明らかにされています。

森: メディアは「聴えているか聴こえていないか」の二者択一にしてしまいます。騒動前は「全聾の天才作曲家」と持ち上げて、騒動後は「実は聞こえていたペテン師」と叩く。「善か悪か」、「敵か味方か」の二元論です。なぜなら、そのほうがわかりやすくなるし、視聴率も部数も上がるからです。市場原理ですね。

風景画を描こうと思って絵の具を買ってきて、原色のまま使う人はまずいません。葉っぱを描くのであれば、緑の絵の具だけでなく、黄色や赤を混ぜるはずです。空の色も地面の色も同じ。でも、わかりやすさを優先するメディアは、情報をどんどん単純化、簡略化して、あいまいさを切り捨ててしまう。その結果、世界は矮小化されてしまいます。つまり、葉っぱは真緑で空は青という原色の世界にしてしまっている。本当はもっと複雑で豊かなのに、もったいないです。

その意味では、現代のドキュメンタリー映画は、情報の簡略化に対するアンチとしての役割を負ってしまったのかなと感じています。つまり、この世界のあらゆることは、そんなに単純じゃないということを示す役割です。本来の役割はそうではないのだけれど。

いろいろな解釈があっていい。それが映画の世界を豊かにする

——今回の映画は、メディアがつくりあげた佐村河内氏のイメージを壊すことで善悪二元論を批判する狙いもあったのでしょうか?

森: 作品をつくる以上、観てくれた人に「このように感じてほしい」「こういったメッセージを届けたい」という思いはもちろんあります。でも、それは口が裂けてもいいません。だってこれは映画です。ジャーナリズムではない。いろいろ想像したり考えたりしてもらうためにつくったのだから。

仮に僕が思っていたこととまったく違う受け取り方をされたとしても、それは気になりません。僕は佐村河内守を撮っているのだけれど、画面のなかにはいろいろなものが映り込んでいます。奥さんがいて、猫がいて、ときには出演依頼にきたテレビ局の人が出てきて、いろいろな動きや表情をしている。僕の意図とは別に、そちらを見て何かを感じる人もいるわけで、そこまで僕がコントロールすることはできません。僕としては、なるほどそういう見方もあるのかと驚くけれど、それはまったく悪いことではなくて、むしろ僕の意図をより一層、豊かにしてくれるものだと思っています。

——いろいろな解釈があることで、作品の世界が広がるということですか?

森: それが映画です。それに、僕が伝えたいことと180度、真逆の受け取り方をされてしまうような撮り方はしていません。その自信はある。

今回は、「FAKE」というタイトルのせいもあって、仕込みだらけのやらせに近い映画だと思っている人もいるようですが、僕はそんな撮り方はしません。それではつまらないものになってしまうから。

その意味では、僕は撮影対象に対して誠実でありたいと思っているし、それをどう解釈するかは観た人によってそれぞれでいい。というか、それが当然でみんなが同じ解釈や同じ感想をもっていたら気持ち悪い。観た人が、僕が意図していないような受け取り方をしてくれれば、僕の伝えたいことはより豊かになるはずです。

映画『FAKE』、公開情報
■『FAKE』 監督・森達也
東京:角川シネマ新宿(http://www.kadokawa-cinema.jp/shinjuku/)
9月24日(土)~9月30日(金) 17:55-
10月1日(土)以降も続映、10月7日(金)まで

今回の「この人」は…

森達也(もり・たつや)
1956年広島県生まれ。オウム真理教信者たちの日常を追った『A』(98年)、『A2』(01年)、フジテレビ「NONFIX」枠では『「放送禁止歌」〜歌っているのは誰? 規制しているのは誰?〜』などでタブー視されていたテーマに挑む。『「A」撮影日誌』(現代書館)、『職業欄はエスパー』(角川書店)など著作も多数。近刊では初の長編小説作品『チャンキ』(新潮社)がある。

 

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この記事を書いた人

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