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『ミナリ』/注目のインディペンデント系製作会社がタッグを組んだ韓国系移民の「家族愛」のかたち(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2021/03/04

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アメリカが舞台と言っても、韓国系移民一家の物語なので、英語が聞こえてくる時間はごく僅か。ほとんどの台詞が韓国語という異色のアメリカ映画で、メジャー系会社が製作にGOサインを出すとは思えない企画である。良質の小品を製作し続けるA24とPLAN Bならではの作品といえるだろう。

ジェイコブはいわくつきで誰も買わない土地を開拓してひと山あて、子供たちに良いところを見せるとともに、自身のアメリカン・ドリームを実現させたい。単純とも言える極めて純粋な男で、どうにも危なっかしい。そんなジェイコブを支えるモニカは現実的でしっかり者。

アメリカン・ドリームの実現よりも、家族と共に生きるささやかな幸せが続けば良いと願っている。この二人の考えは多少食い違っているが、家族の幸せを願っている点では変わらない。

その願いはスンジャも同じだ。劇中、スンジャが説明するが、『ミナリ』とは香味野菜の芹(セリ)のこと。芹は地に根を張ってたくましく生きる野菜で、2度目の旬が最もおいしいと言われているそうだ。つまり、子供たちが幸せに生きるため、親の世代は懸命に生きるという意味が込められているのである。この風変わりなおばあちゃんスンジャの、何と魅力的なことか。

3月1日(現地時間2月28日)に発表されたゴールデングローブ賞で、本作は見事、外国語映画賞を受賞した。ゴールデングローブ賞はアカデミー賞の前哨戦と言われており、その結果はアカデミー賞の結果に大きな影響を及ぼす。英語の台詞が50%に達しなかったため、ゴールデングローブ賞の規定により作品賞の候補とはならなかったが、アカデミー賞には使用言語で作品を区分する規定はない。

昨年度のアカデミー賞では韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞と国際長編映画賞(それまでは外国語映画賞と称していた)をW受賞し、話題をさらった。

映画の国際化は加速度的に進んでいる。2年連続で“韓国語”映画が本家アメリカのアカデミー賞作品賞を受賞する可能性があるわけだが、もはや製作国や発声言語で作品を区別すること自体が意味の無いことなのかもしれない。

本年度アカデミー賞授賞式は日本時間4月26日である。その結果に注目したい。

『ミナリ』
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン/ハン・イェリ/アラン・キム/ネイル・ケイト・チョー/ユン・ヨジョン/ウィル・パットン
配給:ギャガ
3月19日より公開
公式HP:https://gaga.ne.jp/minari/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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