『ヤクザと家族 The Family』/任侠でもない、抗争でもない「熱い」ヤクザの家族映画(2/2ページ)
兵頭頼明
2021/01/27
この時代に登場するのが、22歳に成長した愛子の息子・翼(磯村勇斗)である。翼は柴咲組組員だった父親を抗争で亡くし、子どもの頃から賢治を慕っている。ヤクザになったわけではないが、まともに生きているわけでもない翼。新しい時代の若者らしい翼のクールで危うい生き方が賢治を刺激する。そして、賢治は自分の生き方を選択するのだが、その選択が周りの人々の運命を変えてゆくのである。
1970年代、ヤクザ映画というジャンルが日本映画界を席巻した。60年代までは、堅気衆には迷惑をかけないことを信条とする着流しの古風なヤクザを描いた作品が主流であったが、義理も人情も捨てたヤクザ同士の生々しい抗争を描く『仁義なき戦い』(73)の大ヒットにより流れは一変。実録路線を謳ったヤクザ映画が量産され、隆盛を極めた。そのブームはとうに終息しているが、2018年に当時の流れを汲む作品『孤狼の血』(監督・白石和彌)が登場し、高い評価を得ている。
しかし、本作『ヤクザと家族 The Family』は当時の流れを汲む作品ではなく、ヤクザの抗争を描いた作品でも抗争からヤクザを描いた作品でもない。単純に、家族をテーマにした作品と捉えるべきであろう。思えば、イタリア系マフィアを描いたアメリカ映画『ゴッドファーザー』(72)も、家族をテーマにした作品であった。
少年期に両親を亡くし天涯孤独の身となった男に手を差し伸べたのが、たまたまヤクザの親分だった。男はその親分と父子の契りを結び、やがて愛する家族と出会うが、自分の生き方を貫くことが困難になってゆく。第三章の怒涛の展開に、観客は胸を締め付けられることだろう。
様々な問題をはらんだ物語を、藤井監督は一級のエンターテインメント作品にまとめあげている。綾野剛をはじめ、俳優たちの演技も素晴らしい。熱量が高い、とにかく熱い、熱い作品である。
『ヤクザと家族 The Family』
監督・脚本:藤井道人
出演:綾野剛/尾野真千子/北村有起哉/市原隼人/磯村勇斗/寺島しのぶ/舘ひろし
配給:スターサンズ/KADOKAWA
1月29日より公開
公式HP:https://yakuzatokazoku.com/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。