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『リチャード・ジュエル』 娯楽作品として昇華させた社会派映画(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/05/04

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ハリウッドを代表するフィルムメイカー、クリント・イーストウッドの監督最新作である。今年90歳になるというのに、ほぼ1年に1本という驚異的なペースで監督作品を発表しているイーストウッドだが、近年は『ジャージー・ボーイズ』(14)『アメリカン・スナイパー』(14)『ハドソン川の奇跡』(16)『15時17分、パリ行き』(17)『運び屋』(18)、そして本作と、実話や実在の人物を題材にした作品が続いている。

リチャードをヒーロー視していた一般大衆がマスコミの過熱報道にミスリードされ、彼こそが犯人であると思いこんでゆく。その裏には、手柄をあげたいと願うFBI捜査官ジョン(ジョン・ハム)と、特ダネをモノにしたい新聞記者キャシー(オリヴィア・ワイルド)の行動があった。

本作は偏向報道により一般大衆の感情と世論が操られてゆく恐ろしさを描いているが、SNSを使った誹謗中傷がまかり通る現代社会では、問題はさらに深刻だ。私たちには何が正しくて何が間違っているのかの判断が常に求められており、誰もが加害者にも被害者にもなり得るのだと、本作は訴えている。

しかし、イーストウッドは手練れの映画監督である。警鐘を鳴らすだけの退屈な社会派作品ならば誰にでも作れる。いかなる題材であっても、最後まで観客の目をつかんで離さない娯楽作品に仕立て上げるのがイーストウッドである。実話や実在の人物を題材にした近年のイーストウッド監督作品は、いずれも一級の娯楽作品に仕上がっている。
実際に起きた出来事を単純化し、俳優の演技を生かすことで分かりやすく省略して伝える。もちろん、サスペンスやユーモアといった娯楽映画に不可欠のスパイスをふりかけることを忘れない。これぞ、イーストウッドの真骨頂である。

在宅勤務や外出自粛により、テレビやラジオのニュースに接したり、SNSを利用したりする時間が増えているはずだ。本作を鑑賞する絶好の機会である。


『リチャード・ジュエル』
監督:クリント・イーストウッド
出演:ポール・ウォルター・ハウザー/サム・ロックウェル/キャシー・ベイツ/ジョン・ハム
5月20日 ブルーレイ、DVD発売
(4月15日デジタル先行配信開始)
販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
公式HP:http://wwws.warnerbros.co.jp/richard-jewelljp/

 

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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