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『初恋』

ピュアなラブストーリーのなかに「三池ワールド」が全開(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/02/07

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なりを潜めていた三池作品のぶっ飛び感が復活


(C)2020「初恋」製作委員会

『初恋』とはまた、とても『孤狼の血』の流れを汲む作品とは思えないタイトルだが、本作は紛れもなく東映印の映画である。監督は三池崇史。彼は1998年、アメリカのTIME誌において「これからが期待される非英語圏の監督」第10位に選出された。

TIME誌の慧眼には脱帽する。今でこそ三池は日本映画界を代表する監督のひとりであるが、1998年当時は未知数の存在。『新宿黒社会チャイナ・マフィア戦争』(95)で劇場映画監督デビューしていたとはいえ、劇場公開を前提としないビデオ専用映画「Vシネマ」を量産していた監督であり、メジャーなステージで活躍する存在ではなかったのである。

だが、当時の三池作品はカルト的な人気を誇っていた。彼の作品はとにかく面白く、しかも、とてつもなく破天荒だったのだ。どれほど破天荒だったかは、東京国際映画祭に出品された劇場映画『DEAD OR ALIVE デッド オア アライブ/犯罪者』(99)を見ればわかかる。

刑事と中国残留孤児3世との戦いを描いたバイオレンス映画だが、見る者の想像を絶する驚愕のラストシーンが用意されているのだ。

この作品を東京国際映画祭で見た筆者は、ただただ唖然としたことを覚えている。Vシネマ『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)も同様。王道のヤクザ映画かと思いきや、すべてのジャンルを取り込んだ、いや、すべてのジャンルを超越した“ぶっ飛んだ”映画であった。

その後、三池はメジャーのステージを登ってゆく。作品が多くの観客の目に触れるようになるとともに作風は洗練され、残念ながら、ぶっ飛んだ「三池ワールド」に出会う機会は失われてしまった。

『初恋』はかつての「三池ワールド」を堪能できる作品である。アクション、サスペンス、コメディ、そしてラブストーリーといった全ての要素が詰め込まれ、ぶっ飛んだ作風が復活した。と言っても、物語はシンプルでわかりやすく、芸達者な出演陣が魅力的なキャラクター演じているので、誰もが魅了されるはずだ。

ヒロインを演じる新人、小西桜子の今後は楽しみだが、特筆すべきはベッキーの演技。一皮むけたとは、こういう事を言うのであろう。

往年の東映カラーを受け継ぐ作品の監督として、三池崇史は適任であった。しかも、男性志向のイメージが強い東映映画の枠を守りつつ、ターゲットを女性にまで大きく拡げている。

東映カラーをまといながらも、本質はピュアなラブストーリーという離れ業。「三池ワールド」全開の快作である。

『初恋』
監督:三池崇史
脚本:中村 雅
出演:窪田正孝/大森南朋/染谷将太/小西桜子/ベッキー/村上淳/塩見三省/内野聖陽
配給 : 東映
公式HP:https://hatsukoi-movie.jp/
(C)2020「初恋」製作委員会

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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