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『ジョーカー』

ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞――人間ドラマに仕上げられたバットマンのスピンオフ(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2019/10/04

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本作はコミック史上、そして映画史上最も有名で魅力的なヴィラン、ジョーカーの誕生物語である。監督・脚本のトッド・フィリップスは『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)の監督やアカデミー賞候補となった『アリー/スター誕生』(18)のプロデューサーとして知られているが、彼は純粋だった一人の男が狂気あふれる悪のカリスマに変貌してゆく物語を、映画独自の完全オリジナル・ストーリーとして作り上げた。

フィリップスが描くゴッサム・シティは、これまで原作コミックや映画化作品で描かれてきたものとはまるで異なる。悪の組織が市民の生活を脅かすというコミックならではの世界ではなく、私たちの暮らす現実の世界にとても近い。主人公をはじめ、そこで暮らす市民の生活描写も極めてリアルだ。フィリップスは、弱者に関心を持たない社会に見捨てられた男の内面を丁寧に描いてゆく。それゆえ、本作にはコミック実写映画化作品の売りである派手なアクションやSFXシーンはなく、切なくも悲しい硬質の人間ドラマに仕上がっている。

特筆すべきは、ホアキン・フェニックスの演技だ。これまでジョーカー役は『バットマン』(89)でジャック・ニコルソン、『ダークナイト』(08)でヒース・レジャー、『スーサイド・スクワッド』(16)ではジャレッド・レトーといったアカデミー賞スターたちが演じ強烈な印象を残しているが、フェニックスの演技は彼らを遥かに凌駕し、見る者の胸を打つ。脚本、演出、演技が一体となり、本作は本年度ヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞した。
なお、本作はコミックの実写映画化作品という狭いカテゴリーに押し込めることはできない秀逸な人間ドラマであるが、『バットマン』と実写映画化作品ファンへの目配せも忘れてはいないので、ファンの皆さんはご安心を。

才能さえあれば、柳の下のドジョウは何匹でも捕まえることができる。すべての映画ファンに見ていただきたい、本年度を代表する一本である。 

『ジョーカー』
監督・共同脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス/ロバート・デ・ニーロ/ザジー・ビーツ ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式HP:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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