ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

『記憶にございません!』

三谷作品の定番のファンタジーコメディ――各所で観客に面白がさせる仕掛けが見どころ(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2019/09/06

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

三谷作品の最大の楽しみは、何と言ってもキャスティングだ。中井貴一、佐藤浩市、小池栄子、斉藤由貴、石田ゆり子、吉田羊、木村佳乃、寺島進、梶原善、迫田孝也、草刈正雄といった三谷組常連俳優に加え、ディーン・フジオカ、田中圭、ROLLY、後藤淳平(ジャルジャル)、濱田龍臣、そして有働由美子らが三谷組に初参加。本来の持ち味を生かしたり正反対の意外性を狙ったりと、いつもながら役者の使い方が実にうまい。
多彩なキャストが三谷流政治コメディを紡いでゆくわけだが、政治コメディと言っても、本作には時事ネタや現代政治を風刺したネタは入っていない。そういうものを入れてしまうと、作品は今だけのものとなってしまい、後世に残らないということを、三谷幸喜はよく分かっている。

本作はコメディであり、ファンタジーだ。記憶を失った黒崎はデーヴと同じく誠実で、総理としての職務を全うしようとする。その過程が楽しく、かつ面白い。いつの時代の観客が見ても面白いと感じる作品にしようという監督の思いが十分に伝わってくる。三谷らしいウエルメイドなコメディである。
ただ、どうしても『デーヴ』と比較してしまう。本作には『デーヴ』にあった大きな泣かせのポイントがない。『デーヴ』は観客が全く予期していない意外なところで、不意を衝く形でうまく泣かせてくれる。この呼吸の上手さは真似できないと諦めたのだろうか。

もっとも、三谷のコメディに無理やり泣かせの要素を入れる必要はないし、ファンも泣かせてほしいとは思っていないだろう。
泣かせの要素でなくても良い。ヒントを得た『デーヴ』に対抗する別の“何か”が欲しかった。それは、三谷の映画も舞台も欠かさず見ている三谷ファンとしての、また『デーヴ』を初公開時から繰り返し何度も見ている『デーヴ』ファンとしての、あくまで個人的な思いである。

『記憶にございません!』
監督・脚本:三谷幸喜
出演:中井貴一/ディーン・フジオカ/石田ゆり子/草刈正雄/佐藤浩市/小池栄子/斉藤由貴/木村佳乃/吉田羊/山口崇/田中圭/梶原善/寺島進/有働由美子 ほか
配給:東宝
公式HP:https://kiokunashi-movie.jp/

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

ページのトップへ

ウチコミ!