ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

『パピヨン』

あの名作のリメイクといようりは“アップデート”版 バディームービーの見どころとは?(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2019/06/05

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

トランボは1940年代後半にハリウッドを席巻した赤狩りで仕事を失いながらも、他人名義や偽名で脚本を書き続けた不倒不屈の脚本家である。彼の生涯は2015年に『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』として映画化された。自由を渇望するパピヨンの姿を描くにあたり、トランボ以上の脚本家はいなかったと言えるだろう。73年版の脚本にはトランボの生き様が重なり合って見える。

本作は73年版の脚本を原作としているため物語展開はほぼ同じであるが、いくつか補足修正された箇所がある。まず冒頭で、パピヨンが終身刑囚となるまでの過程を描いている。73年版では、パピヨンが終身刑囚となった理由が台詞で簡単に説明されていただけであった。

次に、ドガがどこに金を隠しているのかを示した。73年版では、金の隠し場所を説明していないのだ。大人の観客なら金の隠し場所はそこしかないとわかかるはずだが、それが明らかになるシーンがリアルで、時代の流れを感じさせる。70年代の娯楽大作の中でも73年版『パピヨン』の描写は極めてリアルで、独房に入れられたパピヨンがゴキブリのような虫を捕まえて食べるシーンまであるのだが、それでも金の隠し場所についてはスルーしていたのだ。

削除されたエピソードもある。73年版には脱獄したパピヨンが差別を受けてきた人々の暮らす島へたどり着く印象的なエピソードがあるが、本作にはない。他にもいくつかのシーンが取捨選択されているが、基本的に本作は73年版の脚本をリスペクトするという姿勢を貫いている。大筋は変えず、細部について現代の感覚に沿うよう修正を加えたというわけである。

パピヨンを演じたチャーリー・ハナムは『パシフィック・リム』(13)や『キング・アーサー』(17)で主役を務めた注目株。ドガを演じたラミ・マレックは大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』(18)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した、いま最も旬なスターである。ハナムはスティーブ・マックイーンの作り上げた鮮烈なパピヨン像から離れようと努め、逆にマレックはダスティン・ホフマンのドガ像に近づこうとしているように見える。2人のアプローチの違いが面白く、演技合戦は見ものである。これぞバディムービーの醍醐味だ。

結果として、本作はリメイク版というよりもアップデート版とでもいうべき作品となった。73年版ほどのインパクトはないが、名作の再映画化の困難さを考えれば、敢闘賞ものの仕上がりである。
余談だが、本作の日本語タイトル・ロゴのデザインが1974年の日本公開時に使用されたものとほぼ同じで、本作があの名作の再映画化作品であることを強く印象付けている。あのロゴもまた“名作”であった。

『パピヨン』
監督:マイケル・ノアー
脚本:アーロン・グジコウスキ
オリジナル脚本:ダルトン・トランボ
出演:チャーリー・ハナム/ラミ・マレック/イヴ・ヒューソン/ローラン・モラー/トミー・フラナガン/ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
配給:トランスフォーマー
公式HP:http://www.transformer.co.jp/m/Papillon/

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

ページのトップへ

ウチコミ!