ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

『万引き家族』 “打率10割”是枝裕和監督の集大成

35ミリフィルムへのこだわりもうれしい(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2018/07/03

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

『万引き家族』は見知らぬ他人の子供が家族の一員となることで、それまでの家族の関係性に微妙な変化が生じてゆくという物語である。言わば、貧乏家族版『海街diary』であるが、新しい家族の一員を温かく迎え入れるという点は同じであっても、その後の展開はまるで異なる。狭苦しい家で肩寄せ合って暮らす家族の描写はユーモラスでありながらも極めてリアルだ。

夕食の場面では、狭い居間の真ん中に置かれた小さな炬燵の上に食器類が無造作に並べられ、どれが誰の物なのかさっぱりわからない。炬燵を囲む者、離れて座る者、片膝立ててカップ麺をすする者、食事をしながら足の爪を切る者と、各自好き勝手な行動を取っている。寝る場面では、治と信代と少女は川の字になり、亜紀は大好きな初枝の布団に潜り込み、祥太は押入れを寝床にする。

かなり荒んだ生活なのだが、彼らはそれを苦としておらず、家族が暮らすうえで当然のこととして受け入れており、暗さは微塵も感じられない。小さな縁側に腰掛け、そこからは見ることができない花火の音を楽しむ6人の姿は実に微笑ましい。どんなに狭くても、この家が彼らを繋いでいるのだと観客は納得してしまう。しかし、物語は次第にシリアスな方向へと向かってゆく。家族とは一体何なのか。この映画のシンプルな問いかけに、私たち観客は容易に答えることができない。

出演者の演技は素晴らしく、見事なアンサンブルだが、なかでも安藤サクラの演技は圧巻。今年の映画賞のすべてを進呈したいと思わせてくれる名演だ。35㎜フィルムを使用した近藤龍人の撮影技術も特筆ものである。映画撮影がほぼ完全にデジタルに移行してしまった今でも、迷わずフィルム撮影を選択する是枝のこだわりは嬉しい限り。

これまでテーマにもディテールにもとことんこだわってきた“打率10割”監督の集大成と言うべき傑作である。

『万引き家族』
監督/脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/
高良健吾/池脇千鶴/樹木希林
配給:ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

ページのトップへ

ウチコミ!