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街の人気も分かる「礼金」 あらためて知っておきたい礼金のエトセトラ

いまさらだけど「礼金」って何? まけてもらわないと損をするの? (1/2ページ)

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イメージ/©︎yuliang11・123RF

知っている人もぜひ読んで

賃貸住宅を借りる際の契約に絡んで、昔から疑問や質問の対象になる一番といえば、おそらく「礼金」だ。

いわゆる「賃貸デビュー」する若者たちが、進学や就職によって毎年大勢生まれて来ること。礼金に馴染みのない人が多い地方もいくつかあること。

そのうえで、ほかならぬお金の話だけに、つねにガイダンスが求められることになるのがその理由だろう。賃貸・永遠の謎費用といっていい。

反面、話題に採り上げられすぎるために、「礼金のことはもういい。詳しくわかったよ」という人も少なくないはずだ。しかしながら、この記事はちょっと違う。話題をやや多岐に広げてみる。最後まで付き合ってみても損はないかもしれない。

なお、お断りとして、以下では主に首都圏を中心とする関東エリアなどで慣習化しているかたちの「礼金」について、述べていくものとする。

礼金の意味は文字どおり「お礼」

日本で賃貸住宅を探す外国人に向けたガイドブックを国土交通省が制作し、同省のウェブサイトで公表している。このうち英語版を見ると、礼金は「Key Money」と訳されている。ではその内容は?と見ると、いささか素っ気ない。「住宅を借りる契約の際、多くの場合で家主に支払う必要があるお金です。通常は家賃1~2カ月分です。返金はされません」と、いったくらいのところだ。

そこで、もう少し突っ込んで解説してくれている例をほかに探すと……

例えば、「礼金は英語に訳すと“感謝のお金”です。物件の貸主が、あなたが部屋を借りることを許可してくれたことへのお礼を意味します」と、いったものが出てきたりする。

Good――それで正解だ。しかしながらここで……

「いやいや待ってくれ。感謝ってなんだよ。家賃を払うお客様はこっちじゃん!」

そう言いたくなる人もなかにはいるに違いないが、なにしろ「礼」「金」だ。上記はまさに字義どおりのゆるがぬ答えといっていい。なおかつ、礼金は歴史をさかのぼれば、おそらくそうしたお礼と感謝の意味を込めたものとして始まっている。

礼金の歴史

礼金がいつ、どのように始まったかについては諸説ある。以前よくいわれていたのが戦中発祥説だ。空襲で自宅を失った人が、雨露しのげる家を探し回り、それをどうにか見つけられた際、路頭に迷わぬよう便宜を図ってもらったお礼として家主に差し出したものが慣習化したとする説だ。

一方、最近多いのが、関東大震災発祥説だ。流れは戦中発祥説と同じで、要は大量の住宅難民が震災により発生した。そこで、自宅の部屋を空けて貸し与えてくれるなどした家主に対し、借家人が、家賃とは別に謝礼を差し出したとするものだ。

なお、戦中説、震災説、いずれにしても新聞やその他の出版物が世の中に生まれて以降の話となる。誰か研究者が資料を突き詰めれば、答えの検証は容易かもしれない。

ともあれ、二説どちらにしても、その当時といえば現在よりもずっと人心猛々しい面のあった時代のはずだ。美しい話だけでなく、困った人の足元を見るような露骨な例も数多くあったことだろう。

やがて、戦後になると、今度は地方から多くの若者が、学ぶため、働くために都会に押し寄せる時代となった。そのため、この間需給バランス上賃貸住宅オーナーは長きにわたって入居者に対する立場を優位に保ち続けた(=貸し手市場)。

また、いわゆる下宿が多かった昭和終盤頃までは、地方から都会へ出た若者の親代わりをつとめてくれる存在としての大家=オーナーへ、実家の親が感謝の気持ちを表す心情的関係も多く見られた。

礼金はそうした環境のなかで文字どおりの礼金=謝礼金として生き残り、その後はほぼ意味を失いつつも、慣習化したかたちで現在に残っているといって差し支えないだろう。

礼金の法的根拠

礼金に法的根拠はない。法令上の意味づけも位置づけもされていない。礼金はあくまで民間における社会的慣習のひとつであり、民・民において契約毎に定められる自由な約束ごとのひとつにすぎないものだ。そのため……

「礼金を払わされる理由に心当たりがないので私は払いません」
「ではすみませんが部屋は貸せません。あなたと契約しません」

――これが当然成り立つことになる。

つまりは、礼金に対する諸人の不満について、法律は味方をしてくれない。なお、一部特殊なケースが現れた場合は、消費者契約法がサポートする可能性はあるだろう。

一方、礼金とよく並んで話題にのぼる「敷金」は、その名称も定義もいまは民法上明確に規定されている。関心があれば同法第622条の2をぜひ見てほしい。現状、礼金との大きな性格の違いといえるだろう。

ただし、ここに面白い判例がある。「平成21年10月29日大阪高裁判決」というもので、ここで争われたのは礼金ではなく実は更新料の有効性だった。しかしながら、これに巻き込まれる(?)かたちで、この判例では礼金に明確な定義が与えられている。

その定義とは、「礼金は賃借権設定の対価である」というものだ。すなわち、本解釈において礼金はいわゆる「権利金」であるということになる。対して、お礼や謝礼、感謝のためのお金といったウェットな意味合いは、この定義上ほぼ消えて無くなっている。

ちなみに、ほかにも判例に表れた礼金の解釈としては、「礼金は広義の賃料」といったものや、「前払い賃料」といったものもある。賃料であってもそこには賃借権への対価としての意味合いもおそらく含まれてよいはずなので、礼金=賃借権設定の対価=権利金説は、この流れの上では順当だ。

よって、裁判官はじめ法律のプロであれば、「礼金とは何ぞや」の問いに対し、「お礼でしょ」は答えとしにくいところ(現実にはお礼ではなくなっているのでややこしい)、権利金にしておけば多分法的には扱いやすい。なのでこれを答えにもってくるケースが、通常多くなるはずだ。

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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