一戸建て賃貸の庭の草刈り 入居者・オーナー、どちらの仕事なのか?(1/2ページ)
賃貸幸せラボラトリー
2021/11/26
イメージ/©︎libertos・123RF
オーナーのボヤきと入居者の常識(?)
以前耳にした、ある賃貸住宅オーナーのボヤきだ。
「一戸建てを貸してるんですが、入居者の方が庭の草刈りをしてくれないんです。夏になると一面草ボウボウで……。ちなみにお隣の方は私が大家だと知っているので、見映えが悪いからなんとかしろとこちらに苦情が来ます。炎天下ですが、いまから作業に出かけます」
一方、入居者からのこんな声も聞いたことがある。
「一戸建てを借りてるんですが、庭の草が夏になるとボウボウに伸びて大変です。見映えが悪いので毎年大家さんに連絡して刈り取りに来てもらっています。えっ、自分で刈らないのかって? いやいやこれって家を貸して家賃を貰っている側の当然の責任ですよね?」
いかがだろう。両者の想いには互いに敵意も悪意もないものの、なにやら真っ向から対立している様子だ。
一戸建て賃貸での庭の草刈り、これを行うのはオーナーと入居者、どちらであるべきなのだろうか?
答えは入居者 「善管注意義務」を負う
いきなりの答えだ。一戸建て賃貸住宅での庭の草刈り、それを行うべきなのは、契約上定まっていないのならば「入居者」だ。根拠は民法に求められる。400条だ。
(民法第400条)
「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。」
ややこしい言い回しになっているが、これを建物の賃貸借契約にあてはめるとこうなる。
「賃借物である不動産物件の占有者となる賃借人=入居者は、賃貸借が終了し、その物件を賃貸人(オーナー)に引渡すまでは、善良な管理者の注意をもって、それを保存管理しなければならない」
すなわち、善良な管理者としての注意を行う義務=善管注意義務に、一戸建て賃貸の入居者が庭の草刈りを行うことは該当すると、従来解釈されている。
だが、「う~ん」と、納得のいかない声も挙がりそうだ。
借りているのは建物だけ? 庭も建物も?
まずは、こんな疑問を呈する人もいるだろう。
「契約上、入居者が借りる目的物が建物だけになっているか、庭も含まれているかで判断は分かれるのではないか。庭も含まれていれば庭の草刈りをすることは善管注意義務に含まれるかもしれない。しかし、そうでないのならば……」
もっともな指摘だろう。だが、これについては判例が出ている。東京簡易裁判所・平成21年5月8日の判決だ。
「……庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては、庭及びその植栽等も建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するというべき」
「……賃借人は本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についても、信義則上、一定の善管注意義務を負うと解するのが相当である」
これらをもって、この裁判では、定期的な草刈りを適切に行っていなかった入居者に対し善管注意義務違反が指摘されている。
ちなみに、この判例で争われた賃貸借契約にあっては、契約書にも、重要事項説明書にも、賃貸借の目的物としては建物のみが記載されていた。敷地(庭)や庭の植栽等に関する記述は一切なかったそうだ。
そのうえで、そういった記述があろうとなかろうと、ひっくるめて「一戸建てを借りる人は、庭も借りているものと理解し、きちんと管理しなさい」としているのがこの判決だ。
すると、庭が結構広いなど、状況によっては、この考え方は入居者にとってそれなりの負担ともなりそうだ。
とはいえ、以上の理屈は、一方では一戸建てを借りる人にとって、大変重要な考え方ともなるものだ。
賃貸借の目的物に、契約上たとえ庭は含まれていなくとも、「入居者は当然そこを通行し玄関から外へと出入りできる」「花も植えられるはずである」「用具・私物等も置けるはずである」など、一戸建てでの“あたりまえ”を保証する裏付けとして、そこが入居者の管理下におかれるとするこの考え方は、非常に大切なものとなるはずだ(=敷地を通常の方法により使用する権利の保証)。
よって、その意味からは、あまたある具体的な状況を考慮せずに“乱用”してはいけないものの、上記判例は、基本として合理的なものであるといって差し支えないだろう。
なお、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、賃貸借の目的物を記載する部分は、実はかなり詳細になっている。庭(専用庭と記載)がこれに含まれるのかどうかもきちんと示されるかたちとなっている。
つまりは、それこそが正解だ。上記の判例等を引き合いに出す以前に、一戸建てを貸すオーナーは、まずは賃貸借される目的物が何かを契約上明記したうえで、必要ならばその管理方法や責任の所在についても約定しておくことが、本来肝心なことといえるだろう。
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室