ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

日本の禅僧とチベット密教が実践してきた身体を癒やす秘法(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2020/06/23

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

エロティックな「甘露降浄法」

一方、「甘露降浄法」も、厳しい修行に倦み疲れた密教僧が、その疲労や倦怠感を癒すために実践されてきた。もし「甘露降浄法」と「軟酥の法」に違いがあるとすれば、それは甘露降浄法のほうがずっとエロティックな瞑想法だという点だ。なぜなら、「軟酥の法」では、自分の頭に、美味しそうな食べ物がのっていると瞑想するのに対して、「甘露降浄法」では、自分の頭の上に、抱きあった男女のホトケがのっていると瞑想するからだ。したがってしたたり落ちてくる「甘露」の正体は、男女の体液が混じり合ってできた愛液にほかならない。なにしろ性器から流れ出てくるのだから、ちょうど人肌くらいの温度だ。どうやらややぬるめの温泉の湯を、頭からかぶっているような感じになるらしい。

頭の上にしたたり落ちてきた「甘露」は、頭から顔、顔から首、首から肩、肩から背中と胸、背中からお尻、胸からおなか、さらに太股や足、最後には足の裏まで、全身をうるおしていく。「甘露」は、皮膚の外側を流れ落ちるだけではなく、頭頂から身体の中にも入ってくる。「甘露」が身体の中に入ってくると、自分の身体と言葉と意識が過去において犯してきた過失がことごとく溶かされてしまう。そして、性器のところと毛穴から、真っ黒な液体となって流れ出す。このとき、肉体的な領域の過失や病はどろどろに腐った血膿として流れ出し、霊的な領域の過失は蜘蛛やサソリや魚や亀などのかたちをとって出て行く、と瞑想するといい。こうすれば、身体と言葉と意識が過去において犯してきた過失がことごとく清められる。

以上のように瞑想することで、疲れはきれいさっぱりぬぐい去られ、心身に新たな力がみなぎってくると説かれている。「軟酥の法」や「甘露降浄法」が現代人に効くか否か、保証の限りではない。しかし「ものは試し」というように、試みても損はないかもしれない。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

ページのトップへ

ウチコミ!