ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

まちと住まいの情景

第1回 華やいだ銀座りの裏側に、かつて住まいの空間が隠されていた(2/2ページ)

岡本哲志岡本哲志

2018/06/27

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

新たに誕生した路地

銀座は、煉瓦街の建設で誕生した表の賑わいと内側に潜む生活を結ぶ路地がかたちを変えながら街の繁栄の原動力となってきた。銀座の路地は新旧が混在して、街の繁栄を支え続ける。この1、2年の間に、路地が新しく誕生した。銀座四丁目の並木通り裏にL字型をした路地があり、宝童稲荷神社が祀られている。明治期に幾つかあった路地は、関東大震災、東京大空襲を経て、ビル化で失われてしまう。その一つを町内会の方の進言で宝童稲荷神社の参道として復活させた。もちろん、新築するビルのオーナーが賛同しなければ実現しないのだが、素敵な路地が誕生した。銀座にとって、路地がいかに大切かを銀座にかかわる方たちは知っているのだ。

凄まじい勢いで建て替えが進む裏通り

銀座の通りの裏に潜む住まいの空間は、建て替えラッシュで姿を消している。銀座三丁目の路地に、六代目といわれる火消の人が住む木造二階建ての建物があったが、近年解体されてしまった。周囲をビルで囲まれ、昼間でも照明をつけないと暮らせない居住環境からすれば、劣悪な居住の場が消されたことになる。しかしながら、もう少し街のアイデンティティという視点から、普段直射日光もあたらない木造の建物が壊されたことを考えてほしいと願う。銀座が単に、賑わいだけの部分で価値を見出すのであれば、銀座も遅かれ早かれ普通の商店街の仲間入りをするだろう。

これからの銀座は、居住だった場をどのように価値転換できるかが重要となる。たかが木造建築であるが、そこに込められてきた背景を受け止める必要がある。まちのあり方、住まうことのあり方を歴史に学び、柔軟な発想で街の価値と可能性を見出さなければ、個性的な銀座の街の魅力を描き続けることはできない。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

ページのトップへ

ウチコミ!