サブスク、リースは得か、損か?――賃貸住宅業界で広がる活用法
小川 純
2021/10/09
イメージ/©︎karenr・123RF
あらゆる分野で広がるサブスク
物を持たない暮らし、ミニマリストといったライフスタイルが定着するなかで広がってきたのが、サブスクリプションというビジネスモデル。さまざまなサービスに広がっている。
サブスクリプション(サブスク)とは、定額料金で一定期間、サービスの提供を受けたり、物を使用したりする「権利」を持つ(付与される)ものだ。
身近な例としては、ネットフリックスやフールーといった動画配信や、スポティファイといった音楽配信コンテンツ関連サービスだろう。また、パソコンのソフトも最近ではソフトそのものを購入するよりも、サブスクのものが増えている。
いまや多くの人が利用する「サブスク」 イメージ/©︎simpson33・123RF
このサブスクという形態のビジネスモデルを理解、活用できない企業は生き残れないとされ、あらゆる分野でサブスクを活用したサービスが登場している。
例えば、ミネラルウォーターが届く定額制ウォーターサーバー、旬の新鮮な野菜や食材が届くサービス、切り花が届くサービスといった生活系サブスク。スイーツやビールなど来店時に1品、1杯無料や食べ放題、飲み放題などの飲食系サブスク。アクセサリー、ブランドバッグや洋服、スタイリスト、スキンケア、コスメ、香水といった女性向けファッション系サブスク。男性向ファション系サブスクでもスタイリスト、ワイシャツ、ひげ剃りが定期的に届くものもある。変わったところでは電動歯ブラシのサブスクといったものもある。
また、ヨガやジム、フィットネス、ゴルフレッスン、英語をはじめとした語学、楽器の演奏レッスンなどのスポーツ・カルチャー系サブスクも人気だ。
物が使い放題になるサブスクでは、自動車のサブスク、子どものおもちゃ、家電や家具。このほかにも日本各地の地方にある家を1週間から1カ月ぐらいで住み替える住宅系サブスクなども登場し、話題になった。
さらに高血圧の治療と薬を含めたサブスク、お見合い・婚活サブスク、お墓のサブスクともはやサブスクはありとあらゆる分野へと広がっている。
サブスクとリースの違い
とどまるところを知らないサブスクだが、サブスクは本当にお得になるのだろうか。
「ずっと使うことを考えたらサブスクは絶対に得ではない。クルマに関しても、365日24時間使うことが分かっていれば、絶対買ったほうが安くなります」と、ある税理士は話す。もちろん、どんなサブスクかにもよる。
「クルマで考えると月極駐車場なら駐車場代、保険などがあります。こういったものの負担も大きくなるので、1kmあたりで換算すると、購入、あるいはサブスはすごく高いクルマになるので、むしろレンタカーやカーシェアのほうが安あがりです」(前出・税理士)
サブスクと同じようなものに「リース」がある。法人(会社)ではオフィスのコピー機やプリンターなど、工場などで使用される機械もリースということも多い。また、最近では個人を対象にしたマイカーリースのテレビCMをしばしば目にするようになったり、個人であってもリースが身近なものになっている。
サブスクとリース、どちらがお得になるのか、それぞれのメリットデメリットを比較してみる。
サブスクの大きなメリットは、①契約、解約が簡単にきること。②そのため新しいものへの交換が容易、の2点だろう。大きなデメリットとしては、①リースに比べ月額料金が高いこと、②「使用する権利」に対する使用料なので、どんなに長く使用していても所有物(資産)にならない。
一方、リースの大きなメリットとしては、①サブスクに比べ月額料金が安いこと、②契約内容によってはリース期間が終了すれば自分のもの(法人では資産計上)にできること。大きなデメリットとしては、途中解約できない。解約できても残りのリース期間のリース料の一括支払いが求められるなど解約に制約があることだ。
サブスクといっても、なかにはリースに近いものもある。
例えば、トヨタがサービスを行っているクルマサブスクの「KINTO」は、サブスク期間が3年、5年、7年と複数のプランがある。そして、それぞれのプランの期間中に免許返納や海外転勤などの理由以外で途中解約するには解約金が発生する。また、契約期間が終了すると、延長、買い取りはできない。加えて各プランで走行距離が決められていて超過したり、終了時の車両の状態によって追加料金が発生する。
このようにサブスクといっても、対象によっては違いがあり、それぞれ一長一短があるわけだ。
節税効果があるというけれど
法人の場合、サブスク、リースは、節税効果が高いといわれる。
「サブスク、リースでも期間が1年以下、リース総額300万円以下のものは、会計処理の際、減価償却する必要がなく、そのまま経費計上できるので、会計処理に手間がかからないという点があります。逆に、リース期間が1年以上、リース総額300万円以上のリースでは「リース期間定額法」という方法で償却期間が決められ、毎年の償却額が一定になるという点で分かりやすいということもあります。さらに償却期間を耐用年数の70%まで短縮できるため、節税効果が高いといことから節税を考えてリースにする人もいますが、損か得、つまりトータルでどっちが高いか安いかで考えるのなら、サブスクやリースよりも、買ったほうが手数料や金利がないのですからお得になります。さらにサブスクでは所有権の移転はないので、そういう面でも損得で考えればと得とはいえないでしょう」(前出・税理士)
ただ、クルマのサブスク、リースでは保険、税金、車検費用まですべてカバーするものがあるように、こうした日常のメンテナンスなどがどこまでカバーされるかということも含め、契約内容をしっかりと確認することが極めて重要になる。
賃貸住宅でのサブスク、リースの活用法
しかし、賃貸業においてはサブスク、リースのほうが単に損か得か、あるいは節税になるかという点だけではなく、物件の魅力を高めるという点から考えると活用方法が変わってくる。
入居者が部屋探しをする際、エリア、立地、築年数、広さ、設備、管理状態など、さまざまな条件を比較検討する。
賃貸住宅オーナーにとってエリア、立地、築年数はどうにもならない。しかし、設備や管理状態は変えられる。かといって、常に新しい設備を整えるにはお金がかかる。そこでここまで見てきたようなサブスクやリースを活用すれば、トータル的な出費は増えるが、初期の大きな支出、メンテナンスの出費を抑えながら、新しい設備を整えたニーズの高い設備をそろえることは可能だ。
具体的には、共有設備の防犯カメラ、宅配ボックス、テレビモニター付きインターホンなどはリースでカバーすることができる。また各戸の設備として、浴室乾燥機、洗濯機、冷蔵庫、食器洗浄機、コンロ、温水洗浄便座、エアコンもリースがあるし、家具や家電はサブスクでそろえられる。ホームステージングにも活用できるだろう。
■主な家具・家電のサブスクリプションサービス
airRoom
出典/airRoom HP
環境省で、高齢者の見守り機能を備えたエアコンの検討も開始された。このように今後、IoT家電の広がっていくなかで、いろいろな機能を兼ね備えた利便性の高い家電も登場することが予想される。そのため単に部屋を貸すという賃貸から、こうした最新の設備や機器をそろえた賃貸住宅のニーズが高まってくること予想される。それをカバーするのは大変だ。そこでリースやサブスクの活用が出てくるというわけ。
「サブスクやリースというのは、固定費を流動費に変えるというのが最大のメリットなので、その部分を享受できるかが、導入の見極めのポイントです」(前出・税理士)というように、リースやサブスクはお金がかかるとはいっても、これも考え次第。むしろ新しい設備や機器を整えることで、高めの賃料を設定することも可能になる。
さらに進めれば、サブスクを利用して各戸に設置する設備、家具や家電を入居者自ら選ぶオプションのようにすることで、これ自体が新たなサービスになり、ほかの賃貸住宅と差別化を図ることにもなる。
「物を持たない暮らし」というライフスタイルが広がっているとはいえ、それは自分では持たないだけのこと。利便性の高いサービスのある住宅へのニーズは高い。
そんな賃貸住宅にするためにはサブスク、リースというのは1つの選択肢といえるのではないだろうか。
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この記事を書いた人
編集者・ライター
週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。