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賃貸経営をする際の注意点とポイント

大家業のリスクヘッジと、 空室にさせないための取り組み方

小川 純小川 純

2022/04/05

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イメージ/©takasuu・123RF

家賃滞納対策は保証会社に任せる

 大家業を営む中で、さまざまなトラブルが発生することは避けられない。しかし、備えあれば憂いなし  日ごろの準備と心構えについて改めて考えてみたい。

大家業の中のトラブルで一番気になる、そして起こるとやっかいなのが家賃滞納ではないだろうか。しかし、「もしもの家賃滞納に備えることは可能」と話すのは、自身も複数の物件を所有しながら大家業を営み、不動産投資などの相談を受ける「FPオフィスケセラセラ横浜」代表の齋藤岳志さんである。


FPオフィス ケセラセラ横浜 代表の齋藤岳志さん。実物資産と金融資産を利用した資産形成を顧客によりそって提案。著書に『資産形成に中古ワンルームを選ぶと失敗しない理由』(合同フォレスト 刊)がある

「入居時に敷金の支払いもできて、保証会社の審査にも通った方であれば、大家の立場として滞納に悩まされる可能性は低いですね」と話す齋藤さんは“餅屋は餅屋”というのが持論。与信については保証会社に任せるというわけである。

最近では、入居申し込みの際、保証人よりも保証会社を利用することが増えているが、齋藤さんが貸している物件の入居者は、今ではすべて「保証会社の審査通過」した人ばかりだという。

入居申し込みがあった際にあれこれ考えるよりも「保証会社の審査を通過して、保証料を払ってくれている」ことが大家としての安心感につながるという齋藤さん。しかし、保証会社の審査を通っているからといって、家賃の滞納がないわけではない。

「数年前、家賃の滞納が発生したことがありました。滞納保証などはつけていないので、突然賃料が入ってこなくなったのです。賃貸管理会社の担当者が見に行ってみると、すでに部屋はもぬけの殻。夜逃げをされていたんです」(齋藤さん)

そこで齋藤さんは、入居者がいなくなったことを確認した日を「退去日」として、新しい入居者を募集。ほどなくして次の入居者が決まったという。その後、保証会社から滞納分の家賃が支払われ「行方不明見舞金」という保険金も受け取った。

「保証会社に保証料を支払うのは入居者なので、大家としては金銭的な負担はありません。保証会社を通せば、滞納保証がついているようなものです。ですから、入居申し込みの際、『保証会社に加入必須』とすることで安心感につながります」(齋藤さん)

信用できる管理会社 その見分け方とは?

「入居希望者の判断基準」というのも大家にとっては悩ましい問題だ。これまで入居希望があった人を断ったことがないという齋藤さんの判断基準は「賃貸管理会社への信頼」だという。

「私は、入居者さんとのやり取りを自分で行う自主管理ではなく、一切を賃貸管理会社に委託料をお支払いして任せています。こうすることで家賃滞納などのトラブルの対応に時間を割くことはありません。トラブルの矢面に立つのは賃貸管理会社になるわけです。ですから、そういった問題が起きれば賃貸管理会社の責任になるため、結果として入居希望者の見極めも管理会社が慎重になると思うのです。そのうえで大家である私に『入居申し込みがありました』と連絡してきているわけですから、それを信用しています」(齋藤さん)

つまり、トラブル対応は賃貸管理会社、家賃滞納は保証会社というわけである。

「保証会社は、入居者の状況に変化が生じる可能性へのリスクヘッジです。そこで『保証会社さんの審査通過と加入』は、入居審査のようなものとしてお願いしています。これは大家である私と、ひいては賃貸管理会社にとっても安心感をもたらしてくれます」

大家にとって「空室」と「滞納」というのは、何といっても2大リスク。しかし、「空室リスクは、賃貸管理会社と協力しながら、どうしたら入居してもらえる魅力ある物件にするか自分自身でさまざまな取り組みができます。しかし、一方の滞納は、『滞納されて家賃をどう払ってもらうか(回収するか)』『滞納した入居者にどう退去してもらうか』ということに、時間や労力がかかります。だからこそ、入口の入居段階がとても重要になります。私よりも賃貸管理会社のほうが、いろいろなケースを見て知見もあるわけですから、その意味からもすべてお願いしています」(齋藤さん)

とはいえ、そのためには信用できる賃貸管理会社の存在が必要になる。その見極めも重要だ。それについてはこう話す。

「管理会社の見極めの基準の1つとして私はいわゆる賃貸管理会社からの報告・連絡・相談をきちんとしているかを見ています。これが遅いようであれば改善を求めます。また、最初はよくても、担当者が変わってダメになるということもあります。そうした場合は前任者に相談したり、担当者の上司に直接、話をしたりすることが必要ですね」

 “時間を金で買う”といわれるが、リスクヘッジ、安心をどこかに任せるというのも1つの選択といえるだろう。 

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ロンダリング、今は昔 事故物件の明確化

高齢化が進む中で、大家として避けて通れないのが高齢の入居者を受け入れるかどうかということだ。もちろん、セーフティネット住宅として登録している物件であれば、高齢を理由で拒むことはできない。また、高齢者は入居すると引っ越すことが少なく、空室リスクの心配が少なくなるというメリットもある。

しかし、入居者が部屋で亡くなり、事故物件扱いになったらということも気になる。しかし、2021年10月、国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が公表され、いわゆる事故物件か否か、入居者に対する告知について明確化された。

このガイドラインによると「老衰、持病による病死などの自然死は、居住用不動産で発生することは当然として、原則として、賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、告げなくてもよい」とされた。

ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、死後、長期間発見されずそのままの状態だったため特殊清掃や大規模リフォームなどを行った場合は、買主・借主が契約をするかどうかの判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるため、告知が必要になる。また、自然死や事故による死亡以外、自殺や殺人などについても告知が必要だ。

しかし、特殊清掃が必要なケースや事件性のある死亡であっても、おおむね3年が経過すれば原則として借主に対してこれを告げなくてもよい、とされた。

数年前に公開、放送された『ルームロンダリング』という映画、テレビドラマでは「一人目の人間を入居させ、よきタイミングで退去させることによって事故物件がクリーンな空き部屋へと変身します」というセリフがあったが、このガイドラインに沿えば、そうは簡単に“クリーン”になるわけではないということになる。

また、加えておくと、「経過した期間や死因に拘わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合」は、調査を通じて判明した点を告げる必要がある。とはいえ、「調査先の売主・貸主・管理業者から不明であると回答されたとき、あるいは無回答のときには、その旨を告げれば足りるものとする」とされる。いずれにしても誠意ある対応が必要になる。

空室、更新時にこそ試される大家の底力

物件を自主管理している賃貸住宅オーナーでなければ、直接、入居者と接するのは賃貸管理会社になる。そのため賃貸管理会社担当者の第一印象はとても重要だ。

とはいえ、賃貸管理会社だけがよければ済むというわけではない。やはり重要なのは、入居希望者が物件にどういった印象を持つかということである。管理会社に任せていれば大家が直接接することはないものの、物件を見れば大家のその部屋に対する思い、ひいては入居希望者、入居者への心配りが垣間見られるということになる。

「当たり前のことですが、1つは入居者に快適に過ごしてもらえる環境を提供できるか、2つ目は入居者のことをいかに気にかけているかということに気づいてもらえるか、ということと思います」と話す齋藤さん。

実際、齋藤さんは、コロナ禍が広がりはじめた2020年4月に賃貸管理会社と相談したうえで、とくに厳しい業種の入居者には1カ月分、会社勤めの入居者には0.5カ月分のクオカードを贈ったという。

「もちろん、見返りなどを求める気持ちはありませんでしたが、クオカードを贈った入居者さんからは、温かい心のこもったお手紙をいただきました。そして、今もだれも退去していません」(齋藤さん)

業者に余分なADを払うよりも、入居者に何某かのものをプレゼントしたほうがテナントリテンションにもつながる。また、空室になったときには、単に清掃するのではなく、ユニットバスであれば、バストイレ別にする工事を行う。さらに、モデルルームのようなホームステージングをして、入居後のイメージができるようにするなど、常に物件のブラッシュアップ、イメージアップを欠かさない。


ちょっとしたアイテムや家具をあしらうだけで部屋のイメージは劇的に変わる 写真はイメージ/©followtheflow・123RF

これらは入居希望者には「ここに住みたいという」気持ちになってもらうような取り組みだ。

「不動産投資では物件購入後、賃貸管理を任せてしまえば、空室にならない限り、基本的に大家としてやることはありません。言い換えれば、大家は自分の時間を割くことはありません。ですから、大家が何かできるのは『空室になった時』『更新の時』で、ずっと住んでもらえるようなことをする大家業の力の見せどころではないでしょうか。そして、賃貸住宅経営では、大家と入居者、管理会社がそれぞれプラスになることをすることが、空室にならず、長く継続して入居してもらえる秘訣ではないかと私は考えています」(齋藤さん)

大家としての取り組み方を、再チェックしてみてはどうだろうか。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。

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