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借主が亡くなった場合貸主としてどう対処する?――賃借人の死亡 その3  事故物件における損害賠償

森田雅也森田雅也

2021/08/18

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イメージ/photoAC

前回、こちらのコラムで国土交通省が出したガイドラインの案の事故物件の告知義務に関して取り上げました。

今回は、投資物件が事故物件になった場合どのような損害が発生し、どのような請求ができるのかをお伝えします。

事故物件の損害内容

事故物件に関して、賃貸人が心理的瑕疵の告知義務を果たすことにより、瑕疵がある分、家賃を相場より減額する必要がある場合や、そもそも心理的瑕疵があることにより契約締結まで至らないこともあります。

このような場合、入居者が決まるまでの期間の家賃収入を得られないといった損害や、通常の家賃より減額しなければならないといった損害が発生することになります。

例えば、本来であれば通常2カ月ほどで入居者が決まる物件であるにも関わらず、心理的瑕疵があることにより、1年経っても新たな入居者が決まらないといった場合には、10カ月分の家賃収入の損害が発生します。

また、入居者が決まったとしても家賃を減額する場合にはその減額分も損害となり、賃貸人にとってはかなりの痛手となります。さらに、特殊清掃が必要になった場合の清掃費用も事故物件ならではの損害といえます。

請求の法的根拠

賃貸借契約における賃借人の基本的な義務として、賃借人は、適切な注意をもって賃貸物件を利用する義務(善管注意義務)を負っています(民法400条)。この意味は、賃貸借契約はあくまでも、他人の物を借りているので自分の財産を管理するよりも、より気を付けて管理しましょうという意味合いです。

自然死と同じく賃借人が賃貸物件で亡くなってしまう例として、自殺が挙げられますが、自殺の場合には賃借人が自らの意思で賃借物件に心理的瑕疵を生じさせたと評価できます。

そのため、自殺の場合には賃借人に善管注意義務違反があるとして、賃借人の相続人や保証人に対して、賃貸人からの一定の損害賠償を認めた裁判例があります。(東京地方裁判所平成22年9月2日、東京地方裁判所平成22年12月6日、東京地方裁判所平成23年1月27日など)

他方、賃貸物件内での自然死・病死などについては、賃借人が自らの意思によってその部屋で亡くなることを選択したわけでもなく、自らの死を具体的に予測・予見できたともいえないため、基本的には善管注意義務違反にはならないと考えられています。

また、このような場合には特殊清掃などが入らない限り事故物件にも当たらないため、告知義務も生じないことになります。

もっとも、自然死による遺体が賃貸物件内で放置されてしまった結果、腐敗が進んで建物に汚損や悪臭が生じ特殊清掃が必要な状態になってしまった場合においても、賃貸人が賃借人に対して特殊清掃費、工事期間の家賃相当額すら請求することが一切できないというのでは賃貸人にとってあまりに酷です。

ただ、そもそも賃借人には、賃貸借契約が終了する際に、部屋を借りたときの状態(経年劣化分は除く)に戻して賃貸人に返す義務(原状回復義務 民法621条)があります。したがって、上記のようなケースでは、賃借人(実際には相続人)は部屋に生じた汚損や悪臭を回復するために措置を講じる義務があるといえます。

この原状回復義務の不履行として、壁紙の張替えや交換にかかった改修工事の費用、悪臭が消えるまでその部屋を貸すことができなかった期間の家賃に当たる損害を逸失利益とし、これを賃貸人に生じた損害として、賃借人の保証人や相続人に対して、その支払いを請求することができる場合があります。

実際にあった裁判例を1つ紹介いたします。
(東京地方裁判所 昭和58年6月27日 判決)

【事案の概要】
病死する数日前に病院を退院し、その後賃貸物件の自室にて病死。真夏に亡くなってから10日間ほどたってからの発見となったため、悪臭や体液がコンクリートなどに染み込んでしまい、自室及び隣室も含め特殊清掃が必要となった。そこで、賃貸人が保証人と相続人に対し善管注意義務違反に基づく損害賠償と原状回復義務違反に基づく損害賠償を請求した。

【争点】
⑴ 善管注意義務違反の存否
⑵ 原状回復義務違反の範囲

【判決の概要】
⑴ 善管注意義務違反の存否について
死亡時、体調が良くなったため退院しており自分が病気で死亡することを認識していたとは考えられず、また、このことを予見することができたとも認められない。

したがって、善管注意義務違反の主張は、その前提事実が認められないとして善管注意義務違反を認められない。

⑵ 原状回復義務違反の範囲
賃貸借終了に基づく賃借人の原状回復返還義務は、賃借人の責に帰すべき事由があるかどうかにかかわらず生じるもの(通常損耗は除く)であるから、その義務の範囲は、特別の事情がない限り、当該賃借物に限られ、それ以外の部分には及ばないと解するのが相当である。

したがって、この不履行に基づく損害の範囲も、当該賃借物の原状回復の不履行と相当因果関係にあるものに限られる。

そうすると、本件建物部分の原状回復の不履行に基づくものに限られ、隣室について生じた損害は含まれないが、賃貸物件についての特殊清掃の費用と悪臭が消えるまでの期間の逸失利益、弁護士費用については損害として認められる。

【まとめ】
このように一概に事故物件と総称しても、その内容は、自殺、他殺、自然死などさまざまなものがあり、その内容によっても、そもそも賃貸人が損害賠償請求をすることができるか否かの判断が異なります。また、仮に損害賠償請求できるとしても賃貸人に認められる損害賠償の範囲は、事故の内容によっても異なります。

万が一、投資物件が事故物件となってしまった場合には誰にどのような請求ができるのか弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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