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借主が亡くなった場合、貸主としてどう対処する? ――賃借人の死亡 その2 心理的瑕疵に関するガイドライン(2/2ページ)

森田雅也森田雅也

2021/06/18

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ガイドラインの対象

ガイドラインでは、取り引きの対象となる不動産において生じた人の死に関する事案が対象とされています。しかし、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引、隣接住戸や前面道路での事案、搬送先での死亡事案は、今回のガイドラインの対象外とされています。

さらにガイドラインでは、居住用不動産のみが対象とされ、オフィス等として利用される不動産は対象外となっています。その理由として、居住用不動産の方は人が継続的に生活する場として利用されるものであり、その取り引きの判断に影響を及ぼす度合いが高いと考えられることが挙げられています。

どのような場合に告知すべきか

告知すべき事案として挙げられているのは以下のとおりです。

① 他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合
この場合には、従来の裁判例からも紛争になりやすいものであり、契約締結をするか否かの判断に重要な影響を及ぼすことが大きいため、原則として告知すべきとされています。

② 自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合であって、かつ、いわゆる特殊清掃等が行われた場合
本来、自然死や日常生活での不慮の死(入浴中の死亡や、転落、誤嚥など)は、当然予想されるものであるから、原則として告知する必要はないとされています。しかし、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、室内に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行われた場合には、契約締結の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるため、原則として告知すべきとされています。

告げるべき内容と範囲

賃貸借契約については、事案の発生時期、場所及び死因(不明である場合にはその旨)について借主に告知すべきとされています。また、特段の事情がない限り、事案の発生から概ね3年間は借主に対して、上記事項を告知すべきとされています。

この3年間という基準は、今回のガイドラインによって新たに示されました。これは実務上、極めて大きな意味を持つと考えられます。ガイドラインが正式に適用された後は、事案の発生から3年を経過した場合には、借主に対して告知をしなくてもよくなることから、「どのくらいの期間告知しなければならないのだろう?」ということに頭を悩ませる必要がなくなり、宅建業者の負担は大きく軽減されることになります。ただし、ガイドラインでは、「特段の事情がない限り」という厄介な文言が入っているので、個別判断が必要となるケースは一部残ってしまうでしょう。

一方、売買契約についても、賃貸借契約と同様、事案の発生時期、場所及び死因(不明である場合にはその旨)について借主に告知すべきとされていますが、期間についてはガイドライン上何ら制約が設けられていません。つまり、売買契約の場合には、賃貸借契約の場合とは異なり、調査の結果、告知すべき事案であることが判明した場合、宅建業者としては告知し続けなければならないことになります。この点は、賃貸借契約と売買契約との大きな違いといえます。

まとめ

ガイドラインが正式に適用されれば、これまでの実務が大きく変わることになるでしょう。しかしながら、ガイドラインでは、「原則として」や「特段の事情がない限り」といった曖昧な表現を使用している箇所が多数見受けられます。つまり、事案の性質や取り引きの内容によって、告知の要否や内容を個別に判断しなければならないケースも残されているといえます。また、そもそも対象不動産以外で人の死が発生したような場合(例えば隣の部屋で自殺が発生した場合等)はガイドラインの対象から外されており、このようなケースでは事案ごとに個別に告知の要否等を判断しなければなりません。判断に悩まれる場合には、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

なお、冒頭でもお話したように、このガイドラインは、現時点(21年6月時点)において国土交通省が出している案に過ぎません。パブリック・コメント手続を経たうえで、再度正式なガイドラインが公表されることになりますので、今後の動向にも注目していただければと思います。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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