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契約名義人と異なる第三者に物件を使用されていた…賃貸借契約、虚偽申し込みを防ぐには?

森田雅也

2021/02/20

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イメージ/©︎bee32・123RF

賃貸借契約 オーナーとして留意しておきたいポイント

今回は、賃貸借契約を新たに締結する際に、賃貸人として留意しておいた方がよい点についてご説明します。

賃貸借契約は継続的取引を基本としているため、賃貸人は長い期間にわたって賃借人と付き合っていかなければなりません。したがって、賃貸人にとっては、賃借人の属性(人柄、職業、家族関係など)は、極めて重要な関心事の一つといえます。

しかし、契約締結時にはよい人だと思って契約を締結したのに、実際は悪質な賃借人だったというトラブルや、契約名義人となっている賃借人とは全く別の第三者に物件を使用されていたというトラブルが後を絶ちません。

実際に、弁護士が相談を受けるケースの中には、「賃借人以外の人物が物件を使用していることが発覚した後、賃借人に話を聞いたら、『私は契約していない。誰かが私の名前を勝手に使った』という主張をされて、どうしたらよいか分からなくて困っている」という賃貸人もときどきいらっしゃいます。

このようなことが起こらないようにするためにも、契約をする前にしっかりと賃借人の本人確認を行うようにする必要があります。

源泉徴収票が偽造されたケースも 本人確認の徹底を

そもそも、なぜ賃貸借契約を締結する前に入念な本人確認が必要かというと、賃貸借契約の特徴として、契約締結後では売買契約など他の契約類型に比べて契約の解除がしにくいという点が挙げられます。

これは、契約の目的物が住居という生活に欠かせないものであることや、継続的な契約関係が基本となっていることが理由です。

そこで、契約締結前にしっかりと賃借人の本人確認をすることが必須といえます。一般的には、入居申し込み時に以下の書類を提出してもらうことが多いです。

・保険証や勤務先の届出
勤務先を届出してもらうことにより、定期的な収入があることを証明してもらいます。また、賃借人と連絡が取れなくなったときや有事の際の連絡先としての意味もあります。

・給料明細や源泉徴収票などの収入を証明できるもの
勤務先の届出により定期的な収入があることが証明できたとしても、今の収入でしっかりと家賃を支払い続けることができるかは分かりませんので、給料明細や源泉徴収票などで収入を確認する必要があります。

一般的には収入の3分の1程度の金額を家賃支払いに充てるのが目安であると言われています。

ちなみに、私が取り扱った案件で、源泉徴収票が偽造されていたケースがありました。このケースは、源泉徴収票に記載されていた勤務先(会社)の住所がデタラメな住所であることが後日発覚した、というものでした。巧妙に偽造されている場合には偽造を見抜くのはなかなか難しいですが、このケースのように、記載内容をしっかり確認することで事前に防げるケースもありますので、できる範囲でしっかり確認するようにしましょう。

・住民票
これは、住所を確認できる書類としての意味をもちます。住所だけではなく、配偶者の有無や親族関係を確認する必要がある場合は、住民票では確認がとれない場合もありますので、戸籍謄本を提出してもらうようにしましょう。

・連帯保証人関係書類
万が一、賃借人となる人が家賃を滞納したときに他に支払ってくれる人がいれば、賃貸人の家賃延滞リスクは減少します。

最近では、連帯保証人ではなく保証会社に保証人となってもらうのが主流となっています。もちろん、連帯保証人と保証会社両方に保証してもらい二重に家賃延滞リスクを減少させる方法もあります。

これらの書類を提出してもらったうえで、賃貸借契約を締結するか吟味しましょう。

一度賃貸借契約を締結してしまうと、信頼関係破壊の法理が適用され、賃貸人からの賃貸借契約は解除しにくくなります。信頼関係破壊の法理とは、債務不履行があっただけでは契約解除が認められず、契約解除が認められるためには、債務不履行に加えて、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたといえることが必要になる、というものです。

例えば、入居申込書に収入を水増しして記載していたとしても、家賃がしっかりと支払われているならば、虚偽記載のみをもって賃貸借契約を解除することは難しいでしょう。

したがって、契約締結前の段階で、この賃借人と賃貸借契約を締結してよいかをしっかり吟味する必要があります。その際には、申込書に虚偽の内容を記載する人や他人になりすまして契約を締結する悪質な人もいるという前提で、しっかり本人確認を行うことを心がけましょう。

賃借人が別人 賃貸人の錯誤無効を認めた裁判例

実際にあった事例として、賃借人が別の人だったために賃貸人の錯誤無効(民法改正前)を認めた裁判例(東京地裁平成2年4月24日判決)をご紹介いたします。

特殊なものですが賃借人Xが長期不在中に、賃貸人Yが勝手に部屋に立ち入って賃借人Xの荷物を搬出してしまったために、賃借人Xが賃貸人Yに対して借家権が喪失したことを理由として不法行為による損害賠償請求訴訟を提起した事案です。

※この裁判は、賃貸人から賃借人に対して、虚偽の申し込みや賃借人が違うことに対して訴訟を提起したわけではありません。

裁判所は、以下の事実を認定した上で、賃貸人Yに錯誤無効(民法改正前)を認め、賃借人Xの契約有効を前提とした主張は認められないと判断しました。

①賃貸人側は、30代半ばの男性が賃借人であると誤信していた
②高齢者に対する賃貸は管理上問題があることから、賃貸人Yとしては、対象物件を60歳以上の者に貸すことを断っていた
③実際の賃借人は80代半ばで高齢であり、このことを知っていれば、賃貸人Yは契約を締結しなかったといえる

この裁判例のように、入居申込書などに虚偽の記載があった場合には、錯誤取消し(民法改正後)などを理由に賃貸借契約が無効であることを主張することも考えられますが、当該事案は賃借人側の欺罔的行為(実際の賃借人があたかも30代半ばの人間であるかのように思い込ませたこと)が重視されており、すべての事案で適用されるかは不透明ですし、そもそも解決のために訴訟を経る必要があるとなると、それにかかる時間や費用は大きな負担となってしまいます。

やはり、賃貸借契約締結前に十分に吟味し、賃借人を選定することは不動産投資には必須であるといえるでしょう。迷ったら弁護士などの専門家に一度相談してみてはいかがでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人法律事務所オーセンス 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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